11月の米大統領選でトランプ前大統領が当選した場合、米国でエネルギー部門の脱炭素に向けた官民投資が1兆ドル(約156兆円)以上減り、二酸化炭素(CO2)排出削減の流れにブレーキがかかるとのリポートを英調査会社が発表した。CO2排出が中国に次ぎ世界で2番目に多い米国で、「ネットゼロ(実質排出ゼロ)」が不可能になると懸念を示している。
再生可能エネルギーや天然資源に関するデータの収集、分析を手掛ける「ウッドマッケンジー」が5月中旬に発表した。
バイデン政権なら脱炭素推進だが…
リポートは、バイデン政権が2022年8月に成立させた気候変動対策の推進に3690億ドルを投じる経済政策などにより、米エネルギー部門には23~50年に脱炭素に向けた約7・7兆ドルの投資資金が集まるとの「基本シナリオ」を提示。風力と太陽光の発電能力は現在の6倍に増え、石油や石炭、天然ガスなど化石燃料の使用量は30年までにピークを迎えるとの試算を示した。
だが、気候変動対策に消極的なトランプ氏が当選されれば、経済政策の優先順位が変わり、脱炭素投資の流れにブレーキがかかる可能性が高い。
リポートは、トランプ氏がバイデン政権の電気自動車(EV)普及策を撤回したり厳しい燃費規制を緩和したりすることで、自動車メーカーがEVに振り向けていた資金をハイブリッド車などへの投資に変更すると指摘。風力・太陽光発電や水素エネルギー、CO2の回収・貯留技術などへの投資も抑制され、脱炭素に向けた投資資金は約6・5兆ドルにまで減るとの試算を示した。
化石燃料回帰の動きが活発化
一方、電力業界では、CO2排出の多い石炭火力を延命させたり、ガス火力を新設したりするなど化石燃料回帰の動きが活発化する可能性が高い。トランプ氏が低価格の火力発電の稼働を後押しし、米国での天然ガスなどの生産を拡大させる方針を明言しているためだ。
これらを踏まえ、リポートは、化石燃料の使用ピークが基本シナリオから少なくとも10年は先送りになると分析。50年の米エネルギー部門のCO2排出量は、基本シナリオに比べ10億トン増えるとの試算を示した。23年に比べ減っているものの削減ペースが大幅に鈍化する形だ。
バイデン政権は50年の米国でのネットゼロを目標に掲げている。だが、リポートによると、50年ネットゼロには11・8兆ドルの脱炭素化の投資資金が必要で、基本シナリオですら4兆ドル以上不足している。
企業は「政府のエネルギー政策の見通しに沿って長期的な投資判断をする」(大手製造業幹部)のが基本で、その時々の政権の影響力は大きい。リポートを担当したウッドマッケンジーのデビット・ブラウン氏は「今回の選挙は50年までのエネルギー投資に大きな影響を与えるだろう。トランプ氏当選シナリオでは、米国はネットゼロに手が届かなくなる」と指摘している。【ワシントン大久保渉】
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