早々に「バイデン大統領VSトランプ前大統領」の再対決という構図が決まったアメリカ大統領選挙。今回の勝敗の鍵を握るのは「第三勢力」になるかもしれない。無所属で戦う「ケネディ家の異端児」が存在感を増している。(TBSワシントン支局長 樫元照幸)
注目の「第三の候補」 ケネディ家の異端児
首都ワシントンで開かれていた小政党「リバタリアン党」の党大会には、トランプ前大統領とは別にもう1人「部外者」が参加した。無所属で大統領選に出馬しているロバート・ケネディ・ジュニア候補(70)だ。リバタリアン党の候補者ではないが、招待を受けて演説を行い、民主党・共和党の双方を批判して大きな拍手があがる場面があった。
ケネディ候補はジョン・F・ケネディ元大統領の甥で、父親はロバート・ケネディ元司法長官という、アメリカ政界の「華麗なる一族」の1人だ。長年、公害問題に取り組む弁護士として活動し、民主党からの出馬を目指したが、去年10月に無所属での立候補に切り替えた。上半身裸で腕立て伏せをしている映像をSNSに投稿するなど、“若さ”もアピールしている。
主な主張は国の分断への批判と、慢性疾患の急増への警鐘で、「自閉症の増加の原因になっている」と主張して小児ワクチン接種に反対し、新型コロナウイルスの接種にも反対していることで知られている。また、「新型コロナは特定の人種を攻撃している」と主張したり、「報道機関はCIAに操られている」などと発言したりして、「陰謀論者」と評されることもある。”ケネディ家の異端児”とも呼ばれていて、きょうだいたちは選挙戦からの撤退を繰り返し求めているが、ケネディ候補は「私たちの一族は意見で対立しても、お互いの愛では一致している」と聞き入れる様子はない。
いったいどんな人が支持しているのか。4月下旬にニューヨーク州で開かれた集会を取材した。会場には高齢世代に限らず、600~700人ほどの幅広い年齢の人が集まっていた。話を聞くと、2020年の選挙でバイデン氏に投票した人もいれば、トランプ氏に投票した人もいた。また、意図的に投票に行かなかった人もいて「私はバイデンもトランプも嫌だ。他の良い候補を探している」と話す人が何人もいた。そんな参加者を前にケネディ候補は「トランプ前大統領もバイデン大統領も問題に対処できる能力がない」「トランプ信奉者もバイデン信奉者も私の政策を見ればこの国に希望を持つようになる」と支持を訴え、会場は大きな歓声に包まれた。
支持率13%の衝撃 始まった「ケネディ対策」
米NBCが今年4月に行った世論調査では、バイデン氏VSトランプ氏の「一騎打ち」の場合の支持率は「バイデン氏44%・トランプ氏46%」だったが、ケネディ氏を含むほかの候補を選択肢に加えると、「バイデン氏39%・トランプ氏37%・ケネディ氏13%」という調査結果になった。ケネディ氏がバイデン氏・トランプ氏の双方から支持を奪っている形だ。
ロイター通信が今年1月に行った調査では「バイデン氏とトランプ氏の戦いはもう見たくない」と答えた人が67%にのぼっていて、「別の候補」を求める人がケネディ氏支持に動いている様子が世論調査から見て取れる。
こうした事態に、バイデン陣営・トランプ陣営ともに「ケネディ対策」を始めた。トランプ氏はSNSに動画を投稿し「私がもし民主党員だったらバイデンではなくケネディ候補に投票しますね。彼こそが民主党らしい候補者です」と訴えた。バイデン支持層をケネディ支持に誘導することで、バイデン氏の得票を減らそうという狙いだ。
一方のバイデン陣営は「ケネディとトランプは同じ大口献金者に支えられている」といった情報を毎日のようにメールやSNSで発信し、民主党支持者のつなぎ止めに必死だ。ケネディ候補がリバタリアン党の党大会で演説した直後にも「今日のケネディ・ジュニアのスピーチは、自己陶酔の異様なもので、不評だった。彼への支持は無く、勝利への道もない」とのコメントを出していた。
32年ぶりの「三つ巴の候補者討論会」実現なるか
バイデン氏とトランプ氏は6月27日と9月10日に候補者討論会を開催することで合意した。6月に開催されるのは異例の早さだ。そして米CNNが主催するこの討論会に、ケネディ氏が参加できるのかが注目されている。
参加資格を得るためには①指定の世論調査で15%以上の支持率を4回以上得るとともに、②270人の選挙人を獲得できるだけの州の出馬資格を得ること、が条件とされている。実は、ケネディ氏はすでに3つの世論調査で15%以上の支持率を獲得していて、①の条件クリアは見えてきた。②についてケネディ陣営は、5月27日時点で15の州(選挙人数201人)で出馬に必要な署名を集めたとしている。
冒頭に紹介したリバタリアン党の党大会では、党内の9人の候補者にトランプ氏とケネディ氏を加えた上で候補者選びが行われたが、結局は党の活動家のチェース・オリバー氏(38)が大統領候補に指名された。リバタリアン党はトランプ氏がぶら下げた「閣僚ポスト」という「アメ」には飛びつかなかった形だ。一方でケネディ氏が指名されれば上記の②の条件を一気にクリアするところだったが、これも実現しなかった。
ケネディ候補が討論会までの残り1か月間でさらに署名集めを進め、参加資格を得ることができるか。実現すれば1992年にロス・ペロー氏が参加して以来、32年ぶりの「三つ巴の候補者討論会」となる。
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