「今世紀最悪の環境破壊」ともいわれるアフリカ・ナイジェリアの原油問題。アフリカでも最大規模の原油生産量を誇る国ですが、今、その原油が盗まれ続けています。ジャングルで原油を盗む“原油ゲリラに”23ジャーナリストの須賀川記者が接触しました。
■違法精製所の取り締まりに同行…“茶番”ともいえる摘発劇
川の一面を隙間なく覆う油の膜。“生命のゆりかご”ともいわれるマングローブの森があったはずの中州は、黒く汚染された土があらわになり、生き物の影はありません。
“アフリカの巨人”ともいわれるナイジェリアでくすぶり続ける、“原油戦争”の闇を追いました。
2億人以上の人口を抱え、アフリカ最大規模の原油生産量と経済規模を誇るナイジェリア。しかし、採掘されたほとんどの原油は、シェルやシェブロンなど海外の石油メジャーによって買われ、輸出されています。
わずかにある国内の石油精製所はほとんど機能しておらず、燃料のほとんどは輸入に頼っているため、多くの人は、違法に精製された安価で劣悪なガソリンなどを買い求めるのです。
23ジャーナリスト 須賀川拓 記者
「(違法精製のガソリンを)ペットボトルからバイクに注いでいますね。本当にすぐ近くでこうやって違法に精製したものが売られているわけです。あー、また1本出てきた」
こうしたガソリンなどを作る違法精製所の取り締まりに同行しました。現場に到着すると、すでに手錠をかけられた、作業員とみられる2人の男性がいました。
ジャングルは油の臭いが漂い、辺り一面、黒く焼け焦げていました。
23ジャーナリスト 須賀川拓 記者
「かなり大きな施設が出てきました」
巨大なドラム缶のような施設が出現。周辺にある地面に掘られた穴には水が溜まっていましたが、どれも真っ黒な油の膜が張り、強い臭いを放っていました。
ただ、“摘発”には不自然な様子も…
23ジャーナリスト 須賀川拓 記者
「破壊しようとしていますが、タンク自体がものすごく強靭な金属でできていて、諦めましたね。もはやパフォーマンスですね。彼らとしても自分たちが仕事していることをアピ―ルしたいところもあるんだと思います」
“摘発ツアー”は、最終目的地の貯蔵施設に向かいます。すると、1時間ほど前に逮捕されていたはずの男性2人が現れ、司令官の指示に従って、手錠が外れた状態で油の汲み出しを始めたのです。
違法精製所を摘発 ナイジェリア治安部隊司令官
「人権に配慮して、逮捕された人たちの顔はモザイクをかけるように」
得意げにこう告げ、インタビューを始める司令官。
違法精製所を摘発 ナイジェリア治安部隊司令官
「この犯罪を根絶する」
ひとしきり主張を聞いたあと、質問をぶつけてみました。
違法精製所を摘発 ナイジェリア治安部隊司令官
「(Q.先ほど言っていた『根絶』『犯罪者』は具体的に誰を指す)犯人たちは21歳~22歳で、彼らは誰かに送り込まれたのでしょう」
何十年と続く“原油窃盗”。その「誰か」の正体は、いまだに分からないのでしょうか。
摘発ツアーが終わったあと目を向けると、逮捕された男性2人は釈放され、村に戻っていくところでした。
茶番ともいえる摘発劇。ただ、森の中では多くの違法精製所が今も稼働し、原油が盗まれ続けていることも事実です。
夜、私たちは摘発を免れている精製所を目指し、ジャングル奥深くに向かいました。
■「飢えている」「生き延びるためにリスクを冒す」原油ゲリラは語る
23ジャーナリスト 須賀川拓 記者
「油の臭いがしてきました。あそこ、空の向こうがオレンジ色ですよ」
ジャングルの中を移動して1時間ほど。突如として開けた場所で、それは行われていました。
女性が黒い液体を炎に投げ込み、巨大な炎が立ち上ります。原油を盗む“原油ゲリラ”です。
23ジャーナリスト 須賀川拓 記者
「火にくべられている巨大なドラム缶の中に原油が入っているんです。原油を火でたくことによって、蒸留されるんです」
原油ゲリラは、北海道と同等の大きさのデルタ地帯に張り巡らされた石油会社のパイプラインに穴をあけ、盗んだ原油を火にくべてガソリンやディーゼルを抽出します。
精製所の数は当局も把握できておらず、現地の報道によると、過去12年に約2000億円換算の原油が盗まれたということです。
23ジャーナリスト 須賀川拓 記者
「これがタンクだそうです。中で沸騰してるんじゃないか?すごい音がしてる。足元に垂れまくっているんだけど、(原油ゲリラは)裸足なんだよ。めちゃくちゃ危ない。しかも素手だし」
違法燃料を精製 原油ゲリラ
「(Q.危険ですね本当に危険だ」
「(Q.違法だと理解しているのか?)もちろんさ」
「(Q.違法だと分かっていて、なぜ続けるのか?)飢えているからだ。生き延びるためにリスクを冒してきた」
■沿岸パトロールをしていた元ナイジェリア軍兵士、上官から「タンカーを見なかったことにしろ」
小川彩佳キャスター:
「飢えている」「生き延びるため」という言葉がありましたが、豊かな資源の恩恵はナイジェリアの人たちに広く行き渡っていないということですね。なぜ、資源を使えない状況になっているのでしょうか。
23ジャーナリスト 須賀川拓 記者:
原油ゲリラの男性は「政府が得ている莫大な利益は私たちにはまったくおりてこない。だからこそ私たちは、この犯罪に手を染めるしかないんだ」とはっきり言っていました。
実際、違法精製所は夜に作業をするので、夜の空を照らし出すわけです。ジャングルで炎が立ち上ればすぐに場所を把握できるので、当局も摘発しようと思えばすぐにできるはずです。
こうした状況がもう何十年も続いていることから、権力構造のかなり上層部にいる人間が見て見ぬふりをしている、何らかの見返りを持って見逃していると考えないと、整合性が取れないわけです。
しかも、これは氷山の一角のさらにその一部だと感じるエピソードもありました。私はナイジェリア軍の元兵士で海軍のいわゆる沿岸パトロールを指導していた立場の人物に取材することができました。
そのナイジェリア軍の元兵士によると、10年ほど前、沿岸の大きな油田・油井(オイルディグ)に国籍不明の巨大なタンカーが横付けし、原油を満載して、また沖に消えていったそうです。これを上官に報告しようとしたところ、上官から「お前はあのタンカーを見なかったことにしろ」と言われたといいます。
巨大なタンカーが運行でき、海軍の沿岸警備体制すらもすり抜ける、もしくは目の前を通過しても摘発することができないという状況です。どれだけの闇、腐敗があるのか考えると、気が遠くなるような思いでした。
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<プロフィール>
須賀川拓 記者
23ジャーナリスト 前JNN中東支局長
ガザ・イスラエル・イラン・シリアなど中東地域を取材
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