岸田文雄首相は26日、韓国・ソウルを訪問し、中国の李強首相と約1時間、会談した。岸田氏は、台湾をめぐる軍事情勢について「注視している」と伝えたうえで、「台湾海峡の平和と安定は、日本を含む国際社会にとって極めて重要だ」と強調した。日本周辺で活発化する中国の軍事活動に深刻な懸念を表明。また、沖縄県・尖閣諸島沖の日本の排他的経済水域(EEZ)内で発見された「中国」と記載されたブイの即時撤去も改めて求めた。
岸田氏は、中国で拘束されている邦人の早期解放や、東京電力福島第1原発処理水の海洋放出に関連して中国側が続ける日本産水産物の輸入規制の早期解除も要求。中国が強める南シナ海への海洋進出や、香港や新疆ウイグル自治区での深刻な人権抑圧への「深刻な懸念」も表明した。
岸田氏と李氏は2023年9月にインドネシアで開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議の際に立ち話をしたことはあるが、正式な会談は今回が初めて。
岸田氏は会談冒頭、「地域レベルの日中協力は、戦略的互恵関係の包括的推進の一つの具現だ。建設的かつ安定的な日中関係に向けた議論を深めるのは大変意義がある」と強調。さらに「日中関係を安定させることは両国のみならず、地域や国際社会にとっても有益だと確信している」と述べた。
李氏は「会談は中日関係発展の重視を表している。両国がさらに歩み寄り、建設的、安定的な関係構築に努力するよう希望する」と応じた。中国中央テレビによると、李氏は会談で台湾問題などの懸案について「約束を重んじ、適切に処理する」よう注文をつけた。処理水問題については「核汚染水」との表現を続け、「全人類の健康に関わる問題であり、日本側が自らの義務と責任をしっかりと果たすよう希望する」と述べた。
会談後、岸田氏は「大局的な方向性を確認し、諸懸案を議論できた。有意義な会談になった」と記者団に述べた。
27日には、中国・成都で19年12月に行われて以来、約4年半ぶりとなる日中韓首脳会談が開かれる。経済分野での協力拡大のあり方や、3カ国で急速に進む少子高齢化など社会的課題での対話強化で一致したい考えだ。また、3カ国は25~26年を「日中韓文化交流年」として人的往来を拡大する方針を発表する。3首脳は会談後、共同記者発表に臨み、会談の成果をまとめた共同宣言を発表する。
共同宣言の焦点は、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮についての書きぶりだ。2019年の首脳会談では「朝鮮半島の完全な非核化」を目指すことで一致した。北朝鮮に強硬姿勢を貫く議長国・韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権はより北朝鮮をけん制するメッセージを打ち出したい考えだが、中国は難色を示す可能性が高い。
また、自由主義や人権など普遍的価値に基づく「価値観外交」を展開する尹政権は、韓国人の拉致・抑留問題の解決にも意欲を示している。18年の共同宣言では日本で起きた拉致問題が初めて言及されており、韓国側は日韓で共有する問題として盛り込むことを模索している。
一方、議長国として外交的成果を強調したい尹政権は、中国との対立や日中韓の足並みの乱れを回避したいのも本音。韓国政府関係者は会談に先立ち、「北朝鮮問題については短時間できれいな合意結果を出すことは難しい」と前置きし、「(会談の)大部分の時間は、投資と貿易の活性化をはじめとする経済協力や未来世代の交流といったテーマに割かれるだろう」と述べた。【ソウル森口沙織、日下部元美、北京・河津啓介】
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