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21日に突然の乱気流に見舞われ、タイの空港に緊急着陸したシンガポール航空機。乱気流による航空機事故で、死者が出るのは極めてまれです。一体何が起きたのでしょうか。


■突然の揺れ「宙に舞う人も」

緊急着陸したタイ・バンコク近郊のスワンナプーム国際空港。負傷者が担架に乗せられ運ばれていきます。乗客がその瞬間の衝撃を口々に語りました。

事故機の乗客
「順調に飛んでいたら少し揺れはじめて、突然バーンと急降下しました。多くの人がシートベルトをしてなかった。天井に頭を打ちつけたり、立っていたため宙を舞う人もいた。死ぬと思った。本当に」
「頭を天井に強く打ちつけました。みんな血を流して、私も目をけがしました。床には身動きがとれない人がいて、あっという間の出来事でした」

けが人は乗客乗員合わせて71人に上っています。そして、イギリス人の男性1人が亡くなりました。心臓発作を起こしたとみられています。

事故機の乗客
「男性を床に寝かせました。救急隊は少なくとも20分間、心肺蘇生を試みていました」

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■機体は上下に揺れながら上昇

■機体は上下に揺れながら上昇

ロンドン発のシンガポール航空機。この日、異変が起きたのはミャンマー上空に差し掛かったころでした。3万7000フィート(約1万1000メートル)の巡航高度で飛行していた機体が突然、上下に揺れました。

航空機追跡サイトに記録された高度の変化を見ると、一定だった高度が突然上がったり下がったりを繰り返しながら、34秒間に約145メートル上昇していたことが分かります。空の上でいったい何が起きていたのでしょうか。

米CNN
「乱気流の原因は分かっていませんが、衛星画像では雷雨が生まれています。航空機の近くに雷雨が発生していたのです」

現場付近で雷雨が発生していたとの情報。厚い雲を飛行する際に機体が大きく揺れることがあります。その揺れが極端なものになったということなのでしょうか。ただ、乱気流を起こしやすい雲はレーダーで確認できるといいます。

桜美林大学航空・マネジメント学群 伊藤貢司教授
「赤く示した空域にそのまま突っ込むと間違いなく揺れます。赤は必ず避けるところです。ただ、今映している雲が低いところにある場合は、飛び越えても大丈夫な場合がある。もし心配だったら左の方に避けたり、または高度を上げて飛び越す。そういう回避の努力をします」

一方で、バンコクの空港の当局者は“エアポケット”に落ちたとしています。

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■予測困難『晴天乱気流』とは

■予測困難『晴天乱気流』とは

そこで浮かび上がるのが、予測の難しい『晴天乱気流』の可能性です。

桜美林大学航空・マネジメント学群 伊藤貢司教授
「(レーダーに)映らなくても揺れる場合があって、いわゆる晴天乱気流も非常に警戒するものです。(Q.突発的な乱気流に襲われた時、パイロットはどういう行動を取る)突発的に襲われたら、シートベルトサインを点灯させます」

今回、シートベルトサインは出ていたのでしょうか。

事故機の乗客
「映画を観ていて、ヘッドホンをしていたので、アナウンスは聞こえませんでしたが、ベルト着用のサインが点灯したので、シートベルトを締めました。その直後、まるで機体が落下するかのようでした」

去年、中国の国内線が晴天乱気流に巻き込まれた時の映像。天井のところまで乗客や物が飛び上がっているのが分かります。乗客1人と客室乗務員1人が負傷しました。1997年には成田発ホノルル行きの飛行機が太平洋上で晴天乱気流に遭遇。女性1人が亡くなり、数十人が負傷する事故が起きています。

こうした激しい乱気流は年々増えていて、北大西洋では1979〜2020年の間に55%増加したとの研究結果が出ています。

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■「晴天乱気流」温暖化で増加か

■「晴天乱気流」温暖化で増加か

今回の事故について、シンガポール航空は「ミャンマー上空の約1万1000メートルを飛行中、突然の乱気流に遭った」としています。原因の1つとして考えられる『晴天乱気流』とはどういうものなのでしょうか。

そもそも乱気流とは、大気中に生じる不規則な気流のこと。ジェット気流、積乱雲、地形などで生じます。

乱気流発生のメカニズムなどを研究する、名古屋大学・吉村僚一特任助教に聞きました。

吉村僚一特任助教
「晴天乱気流とは、晴れた場所・雲のない場所で発生する急な風の変化。当時の状況が詳しく分からないので断定はできないが、もし晴天乱気流に遭遇したなら、レーダーにも映らない。非常に危険」


(Q.晴天乱気流はどうやって起きますか)

吉村僚一特任助教
「上と下で違う空気の層があり、風速が強い・弱いと差がある場合は気流が乱れやすく、晴天乱気流の要因となる。特に高度1万メートル付近のジェット気流の周辺では風速に差が出やすく、晴天乱気流が発生しやすい。ただ、今回の現場付近では積乱雲が発生していたので、ジェット気流だけでなく、急速に発達した積乱雲の影響も考えられる」

国土交通省によると、国内でも晴天乱気流による航空機事故は発生しています。2004〜2023年の間で、乱気流による航空機事故は37件。原因が判明しているもののうち、晴天乱気流によるものは12件発生しています。

吉村僚一特任助教
「東京湾上空も地形の影響で風速の差が出やすく、高度2000〜4000メートルの間で晴天乱気流の報告が多い。このエリアは羽田・成田空港の飛行機の離着陸が多く、高度変更が難しいため、晴天乱気流に遭いやすい」

イギリスのレディング大学の研究では「今後、地球温暖化により、ジェット気流付近の風向や風速の変化が大きくなり、2050年までに全世界で晴天乱気流の発生頻度が2倍になり、より強力になるとみられる」としています。また「乱気流によって飛行状態が不安定になり、航空機の摩耗・損傷や、乗客乗員がけがをするリスクも増えるため、乱気流の予測システムを強化する必要がある」と指摘しています。

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