妻ベゴニャ・ゴメスさん(右)と一緒にポーズを取るスペインのサンチェス首相=スペインの首都マドリードで2023年7月21日、AP

 南米アルゼンチンと旧宗主国スペインとの対立が深まっている。アルゼンチンのミレイ大統領がスペインのサンチェス首相の妻を「腐敗している」と侮辱したとして、スペイン政府が謝罪を求めたからだ。だがミレイ氏に非を認める様子はなく、スペインは駐アルゼンチン大使の召還に踏み切った。事態はトップ同士のいさかいにとどまらず、外交問題に発展している。

 「スペインとアルゼンチンは兄弟国家だ。だが、政府間においては敬意を欠かすことはできない」。サンチェス氏は20日、スペインの首都マドリードで開かれた経済フォーラムの壇上で、こうクギを刺した。

 発端は19日、マドリードで極右政党が開いた政治集会に参加したミレイ氏が、「腐敗した妻を持つと(辞任するかどうかを)5日かけて考えないといけない」と発言したことだった。名指しこそしなかったが、4月下旬にサンチェス氏の妻ベゴニャ・ゴメス氏に利益誘導疑惑が浮上し、5日間進退を検討した上で最終的に続投を宣言した経緯をやゆした発言だと受け止められた。

自身の著書のPRをするアルゼンチンのミレイ大統領=スペインの首都マドリードで2024年5月17日、AP

 反発したスペイン政府はミレイ氏に謝罪を要求し、駐アルゼンチン大使を召還した。アルバレス外相は21日、報道陣に「大使は永久にマドリードにいるだろう」と述べ、長期の関係断絶も辞さない姿勢を見せている。

 一方、ロイター通信やアルゼンチンの主要紙「クラリン」などによると、ミレイ氏はスペイン側の反応について「ばかばかしい。傲慢な社会主義者の典型だ」と応酬している。政府高官は謝罪はしないと表明した。ただ、駐スペイン大使を召還する予定はないという。

 極右でリバタリアン(自由至上主義者)のミレイ氏と、穏健左派の社会労働党を率いるサンチェス氏は、そもそも政治姿勢に大きな隔たりがある。ミレイ氏は2023年12月に大統領に就任したが、ロイターによると対立候補を支持していたサンチェス氏はミレイ氏の勝利後も祝福せず、2人の間にはすきま風が吹いていたとされる。

 ミレイ氏は19日の集会で「エリートは社会主義の理念を実行に移すことがいかに破壊的なことか分かっていない」と批判。一方、サンチェス氏も20日、ミレイ氏の発言は「極右が我々の社会にもたらすリスクを物語っている」と反論しており、事態収拾の道のりは遠そうだ。【ブリュッセル岡大介、ニューヨーク中村聡也】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。