モスクワ南部のボリソフスコエ墓地。ここには2月に獄死したロシアの反体制派指導者、アレクセイ・ナワリヌイ氏が眠っている。葬儀のあった3月1日には彼の死を悼む何千もの市民が集まった。それから約1カ月半後に再訪すると、入り口に警備の男性が1人いるだけで、周囲は静寂に包まれていた。
ナワリヌイ氏はプーチン政権への抗議行動で指導的な役割を担い、政権の汚職疑惑を追及したことなどで知られる。詐欺罪などに問われて有罪となり、2021年から刑務所に収監されていた。
ナワリヌイ氏の訃報がロシアのニュースサイトで流れ始めたのは2月16日午後。だが国営テレビは一向に報じず、夜になってようやく短く伝えた。葬儀に多くの人が集まったことについては、国内メディアはほぼ報じなかった。この頃は欧米メディアや独立系メディアにアクセスすることも制限され、2月にモスクワに赴任したばかりだった私は、ロシアでのメディアを巡る状況に困惑した。
さらに気になったのは、3月中旬の露大統領選直前に放送された国営テレビの番組だ。政権寄りで知られる映画界の巨匠ニキータ・ミハルコフ氏がナワリヌイ氏の近年の動きを紹介していた。ただ内容は批判的で、ナワリヌイ氏を「欧米の手先」と指摘する評論家の話を取り上げ、「自国を破壊しようとする『欧米のパートナー』は反逆者だ」と指弾していた。この番組は何度も再放送された。
ロシアの独立系世論調査機関「レバダセンター」が3月に発表した調査では、ナワリヌイ氏の活動について49%が「賛成しない」と回答。理由は「欧米から金をもらっている」「政府に反対している」「口だけだった」などだった。レバダセンター元所長のレフ・グトコフ氏は、ナワリヌイ氏に対して以前から当局によるネガティブキャンペーンがあったと指摘。調査結果は「十分に予想されたことだ」と話した。
ボリソフスコエ墓地からの帰り、近くを散歩していた中年女性にナワリヌイ氏について聞いてみると、こう答えた。「何をしたかったのかよく分からない。そのうちみんな彼のことを忘れると思う」。ナワリヌイ氏には民族主義的な一面もあり、私は積極的に支持してはいない。ただ、彼女の話を聞いて、どうにも複雑な気持ちになった。
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