中国では今、若者を中心に「漢服」が人気となっている。中国の漢代や唐代、明代などの伝統的な衣装を現代風にアレンジしたもので、行楽地を訪れると、漢服姿で写真撮影に臨む人々をよく目撃する。
日常生活で漢服を着る人も増えており、市場規模は2015年に1.9億元(約40億円)だったのが、21年には101.6億元(約2133億円)と大台を突破。25年には191.1億元(約4013億円)になると予測されている。
この漢服ブームについて、中国メディアも「伝統文化が消費をけん引している」と盛んに宣伝する。自国ブランドの消費を好む「国潮」の流れとも重なり、習近平指導部の掲げる「中華民族の偉大な復興」のスローガンとも相性が良いようだ。官民挙げて「愛国消費」を活性化させ、低迷する国内経済回復の起爆剤としたいとの思惑も透ける。
一方で、この漢服とは対照的に風当たりが強くなっているのが「和服」だ。今年4月、内陸部・重慶市の街頭で日本の浴衣を着用して踊っていた若い中国人女性2人が周囲の人々から「スパイだ」などと罵倒される動画がネット上に投稿されて物議を醸した。ネット交流サービス(SNS)には「歴史を知らないのか」といったコメントが相次いだ。
3月には国営新華社通信が「上海の税関が日本から輸入された中古の着物を『海外のゴミ』として返送措置を取った」と報じた。中国は古着の輸入を認めておらず、措置自体は不自然なことではないが、中国共産党の「喉と舌」とされる国営メディアが報じる内容は、当局からのメッセージと考えるのが自然だ。日本への留学経験がある女子大学院生(25)も「和服などのコスプレ好きの友人も多いが、中国でそれらが許容される空間はどんどん狭くなっている」と打ち明ける。
漢服と和服で明暗が分かれた形だが、これらに共通するキーワードが「愛国心」だ。習指導部は今年1月、「中華の優秀な伝統文化の発展と継承」などを盛り込んだ愛国主義教育法を施行した。自国の歴史や文化に対する自信や誇りを国民統合につなげる狙いだが、愛国教育の推進の副作用で、排外的な風潮がさらに強まる危険性もあるだけに注視していく必要がありそうだ。
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