記者会見で大阪地検特捜部の捜査を批判する中村和洋弁護士(左)ら=大阪市北区で2024年5月14日午後0時2分、土田暁彦撮影

 大阪市の不動産会社「プレサンスコーポレーション」元社長が業務上横領容疑で逮捕、起訴された後に無罪が確定した事件で、捜査を担当した大阪地検特捜部検事が、上司の主任検事に対して「元社長の逮捕は待った方がいい」と訴えていたことが判明した。この進言があった当日、特捜部は元社長の逮捕に踏み切った。

 元社長は山岸忍氏(61)。学校法人が土地売却で得た手付金21億円について、法人元理事長(66)らと共謀して着服した疑いで2019年12月に逮捕され、21年11月に無罪が確定した。その後、違法な捜査で苦痛を受けたとして国を提訴。この訴訟に絡み、当時の経緯を記した検事4人の陳述書を国側が提出し、山岸氏側が14日に明らかにした。

 陳述書によると、捜査検事は山岸氏と共謀したとされた別の不動産会社元社長の男性(56)の取り調べを担当した。この男性は山岸氏の関与を認めていたが、19年12月16日の取り調べで「供述を撤回したい」と訴えた。

検事らの陳述書の主な内容

 捜査検事はこの取り調べの直前、主任検事から山岸氏の逮捕方針を聞かされていた。男性の供述も山岸氏の関与を示す証拠の一つとされていたことから、捜査検事は男性の供述の信用性を慎重に検討する必要があると考え、取り調べを中断して主任検事に「逮捕は待った方がいい」と伝えた。

 特捜部はこの進言を受け入れることなく、山岸氏をこの日に逮捕した。捜査検事は「主任検事の判断で逮捕の方針は変わらなかった」と説明。主任検事は「進言は覚えていないが、捜査検事がそう説明しているのなら否定しない」としたうえで、「全体的な証拠から総合的に判断すれば、男性が供述を撤回したからといって、山岸氏の容疑が十分に認められることに変わりないと考えた」と振り返った。

 一方、捜査検事は男性から「山岸氏の関与を認めた説明部分について訂正する調書を作ってほしい」と要望を受け、主任検事に訂正を申し出たという。これに対し、主任検事は「撤回前の供述は信用できるし、供述の経過は録音・録画されているから訂正は必要ないと考えていた」と述べ、訂正は実現しなかった。

 この事件を巡り、山岸氏の立件を目指した特捜部はこの男性のほか、山岸氏の元部下(59)の供述を立証の柱とした。山岸氏を無罪とした大阪地裁判決(21年10月)はこうした供述の信用性を否定し、「着服計画を認識していたとするには合理的な疑いが残る」と判断した。

 判決はさらに、別の捜査検事による元部下への取り調べを批判。この検事が「プレサンスの評判をおとしめた大罪人だ」「会社が被った損害を賠償できるのか」などと発言したことを認定した。

 この検事は陳述書で「(元部下は)その場しのぎのうそを繰り返し、真剣に供述する態度が見られなかった」と振り返った。発言の真意としては「自分が真剣に取り調べをしていることを理解してもらい、きちんと真実を話してもらいたいという気持ちから語気を強めて追及した」と述べた。

 山岸氏が起こした訴訟で、検事4人の証人尋問が6月に予定されている。【木島諒子】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。