今春、栃木県警に生え抜きの女性警察官として初の警視が誕生した。人身安全少年課の大渕美湖警視(49)だ。女性の警察官が「婦人警察官」と呼ばれ、日勤のみなどに職務が限定されていた頃に県警に就職した。育児を経験しながら家族の協力に支えられ、自らの道を突き進んできた。これまでの経緯や、若い世代へのメッセージを聞いた。【今里茉莉奈】
――県警で生え抜きの女性警察官として初の警視になった気持ちを教えてください。
◆警視という役職に就いたことで重責を担うことへの緊張や不安もありますが、とにかく職務を全うしたいという気持ちです。県警全体を見渡しながら、県民の安心安全を守っていきたいです。
――就職した当時の警察組織は男性社会だったと思います。
◆当時、女性警察官は「婦人警察官」と呼ばれ、制服もスカートでした。男性警察官と違い、当直のないような勤務の仕方をしたり、犯人の取り調べや逮捕というより書類関係の仕事をしたりした時代でした。今は女性警察官も男性と同じように働くようになりましたし、ワークライフバランスも充実しています。育休を経て職場復帰する人も増えています。
――印象に残っている事件はありますか。
◆人身安全少年課で虐待事案に携わることになり、思い出す事件があります。2004年に、小山市で幼い兄弟が川に投げ落とされ殺害された事件です。当時、小山署で児童虐待を取り扱う少年係長でした。通報があり、兄弟に日常的に暴行を加えていたとされる容疑者の男から兄弟を保護しました。その後、児童相談所につなげましたが、残念な結果となりました。兄弟を保護していただけに悔しく、「何かできたのではないか」と今でも自問します。
――家庭との両立で苦労したことはありますか。
◆私が警部になった直後のころ、夜中の呼び出しが多かった時期があります。息子は幼稚園の年長くらいで「お母さん大変そうだから、他のお仕事をしたら」と言われ、「辛い思いをさせていた」と罪悪感にさいなまれました。でも忙しいのはその時だけでしたし、同居していた義理の母や、夫もフォローに入ってくれたので、仕事に没頭できました。
――家庭がある中で、昇任する際はどう考えていましたか。
◆目の前にチャンスがあるなら、与えられたチャンスを生かした方が良いと思っていました。もともと警務課で、女性警察官が働きやすい職場作りなどを推進するような仕事に携わり、ほかの警察官に「キャリアアップしてほしい」と促してきた立場です。口先だけにはなりたくなく、自ら身をもって有言実行していきたいと考えています。
――若い世代の人たちに伝えたいことはありますか。
◆人間は「やれるか、やれないか」で考えると、不安が先行して「やらない」を選択しがちです。「やりたいか、やりたくないか」で考えれば、自分の本心に向き合っているので、きっと自分の答えが出せます。昇任などを家庭環境の都合でためらうこともあるでしょうが、「やりたい」が出てくるならチャレンジしてほしいです。悩むならどこかに「やりたい」という気持ちがある証拠。その気持ちを大切にしてほしいです。
聞いて一言
大渕さんは警部に昇任する際、背中を押された言葉があるという。「やる前に悩むよりも、やってみてから悩んだ方が良い」。茨城県警の女性警視が栃木県警で講演した際の言葉だ。私自身、未来のことを考えすぎて、自分の「やりたい」を見失い、二の足を踏む時がある。しかし、いざその時を迎えると杞憂(きゆう)で終わることもあるだろう。人生、もっと楽に考えてもいいのかも、と心が軽くなった。
大渕美湖(おおぶち・みこ)さん
1974年、今市市(現日光市)出身。93年に県警に入り、宇都宮中央署管内の交番、同署刑事1課、県警本部捜査1課特殊班などを経て、警務課や宇都宮南署の生活安全課長を歴任。夫も警察官。週末にダム巡りをしたり、今春に中学3年生になった長男とSLに乗ったりするのが趣味。
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