原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分場選定に向けた調査の第1段階である「文献調査」受け入れを10日、佐賀県玄海町が決めた。4月中旬に議論が急浮上してわずか1カ月足らずのスピード決定だが、町内に九州電力玄海原発が立地し“原発経済”に依存する町民からは目立った反対はなく、諦めに近い声が上がる。一方、周辺自治体は意思決定に関われないまま、事態が進む現状を懸念する。
「やっぱり受け入れに不安はある。原発の恩恵を受けてきたので理解しないといけないとは思うが……」
30代の男性町民は困惑する。生まれたときから原発があり、関連交付金で町が恩恵を受けてきたことも知っている。自身は隣接する佐賀県唐津市で働いているといい「町内には働く場所がないためほとんどの人が残らない。原発のお陰で仕事がある人もいるし、仕方ないのか」と肩を落とす。
町の人口は1959年の9832人から、65年間で4908人(3月末現在)まで半減。原発の増設などで一時的に人口が増加した時期はあるものの、減少には歯止めがかかっていない。そんななか、町財政の6割を原発関連の収入が占め、玄海原発では現在、約3500人が保守や点検で玄海原発で働く。うち、約470人が町内在住者だ。
元役場職員の70代男性は「子どもや親戚が原発に関わって働いている人が多く、小さな町ではなかなか反対の声を上げることができない」とこぼす。男性は以前はあった反対の声が上がらなくなったきっかけを、70年代以降の3、4号機の受け入れにあると指摘する。農家など漁業者以外からも補償を求める声が上がり、九電からの寄付金を元手に町から1戸あたり100万円の計算で各自治会に振興金が交付された。
2011年の東京電力福島第1原発事故後こそ集落内で原発を危険視する声も出たが、今は聞こえない。イチゴ農家の50代女性は「処分場ができたらと不安はあるけれど、それならそもそも原発のある町に住まない。農業をすると核の問題は気になるし、私たちの代で終わるとよいとは思うけれど」とあきらめ顔だ。
原子力関連施設を受け入れた自治体がその便益を受ける中で、産業構造や議会構成が変わり、関連施設も追加で受け入れやすくなる――。「原子力オアシス」という考えだが、東洋大の中沢高師教授(環境社会学)は玄海町も「こうした状況にあてはまる可能性がある」と推察する。
中沢教授は「原発立地自治体の一般論」として「原発関連施設を受け入れることで、建設業者や商工業者など原発から利益を受けている人の発言力が増していく。漁業者は補償を受けて漁をやめ、反対運動をすることが風評被害を招くことを懸念する農家も口が重くなる」と、反対の声が上がらない背景を指摘する。
長崎大の鈴木達治郎教授(原子力政策)は「理解を求める説明会ではなく、意見を聞く対話をしないといけないのに、それが軽視されている。時間をかけて納得感や信頼感を得ないと、町民の間に不信感や対立が残る可能性が高くなる。国や原子力発電環境整備機構(NUMO)は市町村に意思決定を一任するのではなく、申し入れをする時にその理由を説明して対話集会を開くべきだ」と語る。
一方、近隣自治体からは不安の声が上がる。玄海原発の30キロ圏内にほぼ全域が入る、佐賀県伊万里市の深浦弘信市長は7日の記者会見で、周辺市町村が受け入れの決定に関われないことに不満を表明。「地続きで当然影響がないわけがない。どの自治体も忸怩(じくじ)たる思いだと思う」と述べる一方、「私どもは何かをできる立場にない」と訴えた。
玄海町に唯一接している唐津市の峰達郎市長は4月の記者会見で、玄海町議会に調査受け入れを求める請願が提出されたことを「寝耳に水」と表現。玄海町と「制度上同じ土俵には上がれない」として、「引き続き動向を注視していく必要がある。国も説明責任を果たしてもらいたい」と述べた。【森永亨】
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