河川敷に持ち込んだバーベキューセットが、そのまま放置されていることもある=奥多摩観光協会提供

 観光立町を掲げる多摩川上流の東京都奥多摩町が、河川敷でバーベキューを楽しむ観光客が放置したごみに頭を悩ませている。ごみは河川敷だけでなく、住宅の敷地や公衆トイレ内にも捨てられている。観光客と観光ごみの間で揺れる町は、河川敷でのバーベキューを禁じる強硬策の検討も始めた。

 ゴールデンウイークの中日の2日、奥多摩町役場近くを流れる多摩川河川敷の上空にスピーカーを取り付けたドローンが飛行していた。

 「ごみは持ち帰りましょう。放置すれば不法投棄として法で罰せられます」。英語と日本語で繰り返しアナウンスが流れる。

 この日、河川敷でバーベキューをしていたのは十数組。外国人観光客の姿も目立つ。友人5人と一緒にいたベトナム出身のタイさん(21)によると、JR奥多摩駅から徒歩10分以内と近く、美しい渓谷の河川敷で無料でバーベキューを楽しめる場所としてSNS(ネット交流サービス)で有名だという。「ネットにはごみ問題は載っていなかったが、ごみはきちんと持ち帰ります」と話した。

河川敷でバーベキューを楽しむ観光客にごみの持ち帰りをアナウンスするドローン(左下)=奥多摩町で5月2日、矢野純一撮影

 ドローンでの呼びかけは昨年のお盆期間中に続いて2度目。ドローンは町の委託を受けた奥多摩ドローン協会のメンバーが操縦。川のせせらぎや、バーベキュー客の歓声にかき消されないように今年は昨年よりもドローンに積むスピーカーを大きくした。今年は、夏休み期間中も行う予定だ。

 同協会の榎戸雄一代表は「ドローンに顔を撮影されるなど監視されていると勘違いする人もおり、一定の効果があるように感じる。試行錯誤を続けながら、放置ごみを減らしていきたい」と話す。

 バーベキュー客が急増したのは2020年。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言で、移動が制限された直後から増えた。SNSなどで広く知られ、外国人の姿も目立つように。人口約4500人の町に1日300人以上が訪れ、約9000平方メートルの河川敷がほぼ埋め尽くされたこともあった。

 同時に、放置ごみも急増した。鉄板や網、空き缶や食べ残しなどが河原だけでなく、公衆トイレや住宅の陰にも捨てられるようになった。そもそも、当初はごみの放置禁止を呼びかける看板は多くなかった。

有料ごみ袋だけでもトラックの荷台がいっぱいになる=奥多摩観光協会提供

 休日明けの月曜日には、町の観光商工係や奥多摩観光協会の職員が総出でごみを回収。多い時には2トントラック2台分になることもあるという。

 バーベキュー客向けに駅前でごみ袋を200円で販売し、ごみを回収する事業も始めたが、それでも放置ごみはなくならない。観光協会の矢作佑允事務局次長によると、ごみ箱設置案も浮上したが、「設置でどうにかなる量ではない」という。

 町は、河川敷でのバーベキュー禁止を巡り、都と議論を始めた。井上永一副町長は「ごみは深刻な問題だ。ただ、観光立町を掲げている町としては、禁止したことで悪評が立って観光客が減っても困る。対応が難しい」と頭を抱える。

BBQ禁止など、各地で対策講じる

 河川敷でのバーベキューによるごみ放置は、奥多摩町だけの問題ではない。同じ多摩川流域にある狛江市では、2011年に罰則規定を盛り込んだ河川敷でのバーベキュー禁止条例を制定した。

 狛江市では、巡回監視員を配置し、注意を促している。以前はにおいや騒音など市民からの苦情が寄せられていたが、今ではほとんどバーベキュー客はいないという。

 埼玉県飯能市の入間川河川敷では、奥多摩町と同じく、新型コロナウイルスの感染が拡大した時期に、バーベキュー客が急増した。

 飯能市によると、21年のゴールデンウイークには1日100件近い110番通報があるほど、河川敷一帯が混乱した。市は緊急措置として、同年8月から2カ月間、河川敷を閉鎖してバーベキューを禁止した。

 その後、観光客を呼び込もうと22年には大人1人1000円で、ごみを全て回収する有料バーベキューゾーンを整備。昨年のゴールデンウイーク期間中には1日約700人以上が利用し、放置ごみも大幅に減ったという。【矢野純一】

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