マーキングのため、スプレーのように尿を吹き付ける猫=岩手大提供
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 猫が壁などにお尻を向け、しっぽを立てながらスプレーのように尿を吹きかける「マーキング」が、普段の放尿以上に悪臭を放つ仕組みを、岩手大の宮崎雅雄教授(生化学)のチームが初めて解明した。研究室で猫を飼う地道な観察が実を結んだという。どんな試行錯誤があったのか、その軌跡に耳を傾けたい。

 マーキングは猫同士のコミュニケーション手段の一つと考えられている。しかし強いにおいをまき散らし、飼い主にとって悩みの種。住宅街での悪臭問題も引き起こしてきた。宮崎さんによると、マーキングがなぜ臭いのかを調べた先行研究はなく、詳しい原因は分かっていなかった。

猫の「スプレー尿」が臭いのはなぜ?
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 宮崎さんや大学院生の上野山怜子さん(26)らは研究室で常時15匹ほどの猫を飼育しながら観察を重ね、マタタビへの反応について論文を多数執筆するなどユニークな研究で知られる。

 研究チームはまず、猫が通常、地面に用を足す際の尿と、マーキングの際に放つ「スプレー尿」の成分が異なるのではないかと疑った。スプレー尿になる際、肛門線分泌物に由来するにおい成分が混ざり、通常の尿より臭いのではないか、という発想だ。

 ところが、通常尿とスプレー尿から揮発する成分を比較した結果、ほとんど差がないことが分かった。それぞれのにおいを猫に嗅がせる行動実験でも違いはなかった。

 研究は振り出しに戻ったように思われた。しかし、ここで研究チームが長年猫を観察してきた蓄積が生きた。

 宮崎さんのチームはこれまで、健康な猫の尿には特有のたんぱく質が含まれ、ビーカーなど実験容器にこびりつく性質を見いだしていた。このたんぱく質の影響で尿が壁に付着しやすくなり、強くにおう一因になっているのでは、と今度は考えた。

 仮説を裏付けるため、たんぱく質を取り除いた猫の尿を垂直に立てたガラス板に吹き付けたところ、通常の尿より付着量が少ないことが分かった。

 さらに実験を重ね、猫の尿をスプレーでレンガの表面に吹き付けた場合、直接地面の土に注いだ場合との間でにおいを比較。レンガからはにおいが漂ったのに対し、尿がしみこんだ土ではにおいを感じなかったという。

 レンガに付着した尿は比較的短時間で蒸発し、におい成分が空気中に放出されたと考えられる。また通常の尿は液体のまま土の粒子にしみ込み、においが放出されにくかったとみられる。

 こうして猫の尿に含まれる特有のたんぱく質がマーキングの悪臭に関与していることを突き止めた研究チーム。しかしこの成果、一体何に役立つのだろう。宮崎さんは「例えばたんぱく質を分解するような洗剤があれば有効な消臭方法となるかもしれない」と、技術開発などに期待を寄せている。

 研究成果は科学誌「ジャーナル・オブ・ケミカル・エコロジー」のオンライン版で論文が公開された。【釣田祐喜】

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