「動物虐待」との批判を受け、大幅に改善して4日に催された三重県桑名市の多度大社の「上げ馬神事」。今年から土壁がなくなり、緩やかになった坂を、騎手役の若者を乗せた馬が次々と無難に駆け上がった。急な土壁を跳び越える勇壮な奇祭から、人馬の安全を重視した神事へ――。700年近い歴史がある祭事の大きな転機を見守った観衆からは「時代の流れ」「迫力がなくなった」といった声が漏れ、伝統行事への思いが交錯した。
上げ馬神事は南北朝時代に始まったとされ、県無形民俗文化財に指定されている。これまでは、馬が坂の頂上に築かれた土壁(高さ約2メートル)を乗り越えた回数で農作物の豊凶などを占っていた。しかし昨年、馬が斜面で転倒、前脚を骨折し、殺処分された。神事の様子がSNSで拡散され、「虐待ではないか」と批判が相次いだため、大社と氏子でつくる御厨(みくりや)総代会は馬や動物福祉の専門家の提言を受け入れ、土壁を撤去し、坂を緩やかにして砂を敷く――などの改善策をまとめた。氏子らは馬の適切な取り扱いを学ぶ事前講習も受けて本番に臨んだ。
坂の構造が初めて激変する中、4日は神占いで騎手に選ばれた地元の若者3人が陣がさ、裃(かみしも)姿で元競走馬に騎乗。各2回、馬を替えながら境内に設けられた馬場を走り抜けた後、坂をいずれもスムーズに駆け上がった。
詰めかけた観衆は、様変わりした神事に熱い視線を注いだ。約20年、通い続けているという愛知県愛西市の会社員、平井勝秀さん(60)は「(坂の改善で)迫力はなくなったが、神事の継承や馬の安全面もあり、複雑な気持ち」と受け止めた。
岐阜県中津川市から初めて訪れた会社員、原秀利さん(65)は、難なく上がっていく様子を見て「関係者にとっては物足りなさを感じたかも。安全に配慮しつつ、観衆が楽しめる神事にするためにどこで折り合いを付けるかが難しい」と話した。
また、三重県四日市市から自転車で2時間かけて訪れた無職、松田弘司さん(89)は「今年は従来と違い、馬も人間も無事だから、これでいいのかもしれない。危険度を重視するよりいい。時代の流れと動物愛護を考えれば、迫力がなくてもいい」と話した。
御厨総代会の伊藤善千代会長(75)は、6回とも人馬が無事に上がったことについて「ホッとした」と安堵(あんど)の表情を浮かべ、「迫力がないことを口にする人もいるが、安全に上がれた方がいい」と述べた。
昨年の神事では、氏子らが法被などで馬をたたく行為も確認されたことから、馬への虐待がないか、県も監視した。動物愛護を担当する県食品安全課の担当者は「検討した結果が反映されていて、見る限り動物愛護に配慮されている。残り1日あるが、これからも第三者からの意見などを取り入れてよりいい形にしていければいい」と話した。
神事は5日も午後2時ごろから行われ、若者3人が1回ずつ騎乗する。【松本宣良、渋谷雅也】
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