手塩にかけて育てた花が消費者の手に渡ることなく廃棄されてしまう「フラワーロス」を減らそうと、千葉県旭市でコチョウランの栽培や販売を手掛ける「椎名洋ラン園」は、開花前に傷ついてしまったコチョウランを「里親」に育ててもらう試みを始めた。同園取締役の椎名輝(ひかる)さん(41)は「傷ついたコチョウランにも命がある。捨ててしまうのではなく、生かすための新たな道をつくってあげたい」と話す。【近森歌音】
コロナ禍の際、多くのイベントが中止になり大量の花が廃棄されたことから、フラワーロスの問題がクローズアップされた。同園では移動や輸送の際に、葉や花に傷が付いてしまうことが多く、年に約8万鉢を廃棄したこともある。
とりわけコチョウランは高価で贈答品として用いられることが多く、生育上は問題がない小さな葉の傷でも商品価値がなくなり廃棄せざるを得ないという。
苗から出荷できる状態になるまで約4年かかる。品種によっては10年を要するものもあり、長年、愛情を注いで育ててきた花を捨てる時は心が痛むという。「どうにかできないか」と思い悩み、傷ついた開花前のコチョウランを里親へ託し、育ててもらうプロジェクトを思いついた。
クラウドファンディング(CF)で3月末まで2カ月間、支援者を募ったところ、229人から目標額(30万円)を超える約160万円の資金が集まった。つぼみができる前の状態のコチョウラン約400鉢を送り出した。開花までは約2カ月かかるため、いま、里親から続々と開花報告が届いている。
里親からは「置き場所はここでよいか」「水はいつあげればよいか」といった相談が無料通信アプリ「LINE(ライン)」で寄せられ、椎名さんはその一つ一つに目を通してアドバイスしている。「『こういう悩みもあるのか』と学びもあり面白いので、これからもサポートを続けていきたい」と話す。
同園では2014年から小中学校などでコチョウランを苗から育て、開花したランを大切な人に贈る授業をボランティアで行っている。集まった資金は里親への花の輸送費などだけでなく、そうした「花育(はないく)」にも活用する。
今回のCFは終了したが、今後も里親の活動を続けたい考えだ。椎名さんは「里親の方がランをペットのような感覚で可愛がってくれることがわかり、新たな気づきだった。今回の取り組みをきっかけに、花の魅力をもっと発信して需要を高め、フラワーロス対策につなげていきたい」と意気込む。
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