凡例記載「反論できず」
埼玉県小鹿野町の二子山東岳でクライミングルート整備のための一般社団法人「小鹿野クライミング協会」による樹木の伐採が、保安林改良工事区域内で行われていたことを示す県作成の図面があることが判明した。毎日新聞が4月、町に行った情報公開請求で開示された文書に添付されていた。伐採範囲の半分近くが改良工事区域内にあり、「(違法性のある)保安林伐採がなかった」とした県の決定を否定する内容だ。【照山哲史】
開示された文書は、東岳での伐採について町と県が昨年8月30日に行った打ち合わせの内容を記載している。伐採地に関し、2002年度に県(秩父農林振興センター)が行った保安林の整備(小鹿野第2保安林改良事業)記録が見つかったとしたうえで、現場にその範囲を示す「赤い杭」があり、杭の位置から、協会による保安林伐採が推測される、と記している。
A4判2枚の文書に添付された図面は、保安林の整備記録について書かれた「事業精算書図面」の一部を拡大した地図だ。事業範囲を黄色の線で囲み、協会による伐採範囲を水色で、また現場で確認できた杭の位置を赤で示している。
一方、県は過去の毎日新聞などの情報公開請求に対して、この保安林改良事業の記録は「存在しない」と回答。今回町が開示したのと同じ昨年8月30日の打ち合わせを県側が記録した文書でも、事業記録について書かれた部分を黒塗り(一部不開示)にして開示していた。また、現場で記者が確認した赤い杭についても「なぜ存在するのか分からない」などと答えていた。
だが、今年1月になって、県が開示した文書の黒塗り部分の一部が、県側のミスによりパソコン上などで外せることが分かり、そこに書かれていた事業記録の存在が発覚。すると県は「記録があることは分かっていたが、(自治体が保安林整備の将来計画を図示するときに使う)黄色で示されていたことから『計画だけで未実施の工事』と判断し、黒塗りで開示した。更に精査した結果、図面に記載された『凡例』などから実施工事と確認できた」と、「事業記録はない」としていた当初の説明を変えた。
今回存在が判明した図面の「凡例」には、黄色く塗られた部分は「伐倒木整理なし」と書かれている。県によると、この記載は「伐採した樹木を放置するか、整理するか」を工事発注の段階で決めて記したものだ。「凡例」の記載は誰もが気づくほど大きく記されており「未実施の工事と判断した」という県の説明は説得力に欠ける。
また、問題となっている樹木の伐採は、協会によって22年9月から翌年3月の間に行われた。保安林伐採は森林法で県知事の許可が必要とされており、県は協会の伐採に違法性がなかったか確認するための調査を一般からの通報を受けて昨年6月に開始。毎日新聞はその調査の経緯を検証するため関連文書の開示請求を続けてきた。
今回町が開示した文書などによれば、県は同8月30日の打ち合わせで「保安林伐採が推測される」と町側に説明したにもかかわらず、同10月20日の土地所有者との立ち会い調査で「保安林の伐採はない」と結論づけている。この立ち会い調査に、県が保安林伐採があったと推測する根拠となった改良工事の記録は使われず、別の「森林計画図」が使われた。
なぜ、改良工事の記録を調査に使用しなかったのか。県が「保安林伐採があった」との推測を変えたのはいつなのか。そうした決定の経緯や理由を示した文書は現時点で開示されていない。
この点について県(秩父農林振興センター)は「町と最終的な打ち合わせをした昨年9月22日以降、センター内部の打ち合わせで工事は未実施と判断したので記録には残していない。凡例の記載に気づかなかったのは不自然と言われても反論しようがない」としている。
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