バトントワリングチームに所属していた当時10代の男子選手にわいせつな行為をしたとして京都府警が29日、強制わいせつの疑いで指導者だった男(40)を逮捕した。捜査関係者への取材で分かった。男は事件発覚後に海外に渡航し、連絡が取れなくなっていた。
捜査関係者によると、男は昨年2~3月、京都市内の自宅で、チームに所属する当時18歳の男子選手に対し、下半身を触るなどのわいせつな行為を行った疑いがある。選手が家族に相談し、被害が発覚した。
関係者によると、選手が所属していたのは京都と滋賀を拠点に活動するバトンチーム。統括組織「日本バトン協会」(東京)は昨年7月に弁護士3人による外部調査委員会を設置し、同年12月に報告書を公表した。選手は精神的苦痛を訴えて練習に行けなくなり、出場予定だった全日本選手権に出場できなくなったという。
指導者の男は協会を退会したため、規定上処分できなかった。選手の家族から相談を受けた府警が捜査を進めていた。
事件を巡っては昨年3月、選手の家族が日本バトン協会に被害を申告したが、当時の理事長が独断で対応したため、協会として把握するまで3カ月近くを要した。当時の理事長は1年の会員資格停止処分となった。
「声上げたら・・・」急増スポハラ、背景に被害者のジレンマ
日本スポーツ協会は、スポーツの現場での暴力や暴言、ハラスメントなどの行為をスポーツハラスメント(スポハラ)と定義している。協会が開設した窓口への相談件数は昨年度、新型コロナ禍の収束とともに過去最多を記録した。専門家はスポハラが生まれやすい特有の課題を指摘するとともに、指導者の質の担保や環境改善が急務と指摘している。
日本スポーツ協会によると、スポハラを巡る相談件数は昨年度、過去最多の485件に上った。被害者の約7割は小中高生だった。
同協会の令和元年の調査では、スポーツ指導の現場で過去5年間に何らかのセクハラを見聞きしたと回答した指導者が約3割に達した。その背景として最も多かったのが「指導者の人間性や人格」(90・4%)。次いで「被害を訴えにくい関係や環境」(71・8%)だった。
特有の背景はあるのか。大阪体育大の土屋裕睦(ひろのぶ)教授(スポーツ心理学)によると、スポーツの指導現場では指導者側に「子供たちを強くするため」といったハラスメントを生む動機や正当化が生じやすい。被害者側も「声を上げれば指導を受けられなくなったり、試合に出られなくなったりするのではないか」といった恐れなどから、被害申告をためらう傾向があるという。
土屋氏はまた、指導の現場で指導者と生徒が2人きりになるような閉鎖的環境が作られやすいことや、必然的に身体接触が生じやすいこともハラスメントを助長していると指摘。相談の急増については「社会通念の変化や、相談窓口の充実によって言い出しやすくなりつつあるのでは」と分析し、根絶に向けて「指導者育成のカリキュラム改善や免許制の導入による指導者の質の担保に加え、1対1にならないようなオープンな環境づくりが必要だ」と訴えた。(荻野好古、木下倫太朗)
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