1月の能登半島地震で被災し、休止していた石川県能登町の障害者向け就労支援事業所が5月から活動を再開する。発災直後に離散した利用者と職員は3月から事業所外で定期的に集まり、日用品作りなどに汗をかいてきた。来月1日で発生から4カ月。再開は大きな節目だが、利用者の多くが今も避難生活を余儀なくされ、全員が「日常」を取り戻すのはまだ先になる。
「再開できるのは、とてもうれしい。手話のできる支援員やボランティアの皆さんの協力があり、ここまで来られた。感謝しています」。就労支援事業所「やなぎだハウス」所長の佐藤香苗さん(62)は今月25日、取材にこう答えた。
同事業所は、企業での就職が難しい聴覚障害者らとの間で雇用契約を結ばずに就労場所を提供する施設として、平成29年に開所した。
昨年までは奥能登といわれる輪島、珠洲(すず)両市と穴水、能登両町に住む障害者約20人が利用。毎日十数人が集まり、商品のラベル貼りのほか、事業所近くの農園でブドウやサトイモの収穫、仕分けなどにあたっていた。
ところが元日の地震で状況は一変。鉄筋3階建て施設は天井が崩れ、壁にひびが入るなど使用できない状態に。被災した利用者と職員は避難所生活を余儀なくされた。
聴覚障害者にとって、手話ができる人が近くにいない状況では、SOSを発信するハードルが上がる。同事業所の利用者の中には被災地での生活は困難だとして、石川県白山市や金沢市に2次避難した人も少なくない。
一方で、地元に残った利用者は発災2カ月後の3月から、同事業所の職員とともに能登町の公民館で活動を始めた。
当初は週1日ペース。今月中旬からは週に2日集まり、地道に布製の草履作りなどを続けた。完成した草履はボランティアによって全国販売されている。事業所利用者の山崎絹枝さん(73)は「避難所では寂しかったが、また集まることができてうれしい」と笑顔を見せた。
地震後は県外からも支援者が駆けつけ、利用者と交流した。和歌山市の就労支援施設「手の郷」の所長、中野桜さん(44)は「和やかな表情もみられて安心した」と話す。
やなぎだハウスは修繕工事を終え、29日の完工式を経て5月に再開する。大型連休後は活動のペースを週3日に増やし、6月から地震前と同じ週5日に戻す予定だ。
もちろん課題もある。2次避難している人らの自宅は損壊したままで、当面の間は戻れない。
「事業所に通えない人にも支援が必要。利用者全員がそろって作業できる日を早く迎えられるように頑張りたい」。佐藤さんは事業所再開の先を見据えて意気込んだ。(梶原龍)
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