電動キックスケーターなど電動マイクロモビリティーのシェアサービス「LUUP」(ループ)のサービス提供が北九州市内で始まってから約1カ月。このところ、街中でもよく見かけるようになった。一方、新しいサービスの登場には、利用マナーへの不満や交通事故への不安もある。安全・安心を守りながら社会と共存するために必要な事は何か、記者も実際に利用して考えた。
不安いっぱいの試乗
サービス開始日の10月29日、Luup(東京)が実施した安全講習会に参加した。乗用車は取材やプライベートでほぼ毎日運転し、長距離ドライブも好きだが、実は自転車の運転には自信がない。そんな私でも乗れるのだろうか――。
両手でハンドルを握り、ボード部分に片足を乗せて逆の足で2、3回地面を蹴り、両足を乗せてすっと立つ。アクセルは右ハンドルにあるレバーを親指で押すと加速する。ブレーキは自転車同様に左右のハンドルに付いている。
いざ、ボードに乗り恐る恐るアクセルを押してみたが、うまく加速できず数メートルも進まずに止まってしまった。二輪車の特性で、停止すると安定を失う。速度を出した方がバランスを取りやすいと分かり、次は思い切ってアクセルを押すと、用意されたコースを周回することができた。スタッフは「上手ですよ」と褒めてくれたが、まだ不安を拭い切れない。
「運転免許不要」でも……
電動キックスケーターは16歳以上が運転免許なしで乗れるが、ループの利用はアプリ内で年齢確認書類の提出や交通ルールテストの全問連続正解が必要だ。アプリには利用を開始する度に禁止事項が表示され、ルール違反を繰り返す利用者のアカウントは凍結される。運転免許は必要なくても道交法への十分な理解が必要で、これは自転車を含め、公道で車両を運転する全ての人に求められることだ。
ドライバー側のルール理解も重要
安全講習会の会場を離れ、公道での走行に挑戦した。安全講習会が開かれた公園はレンガ敷きだったが、きれいに舗装された路面では滑らかに加速できた。自転車のようにペダルをこぐ必要がないため疲れないし、スカートでも裾がめくれたり車輪に巻き込まれたりする心配が少なく、慣れると乗りやすいと感じた。何より、風を切って走るのが心地よい。
一方で、公道を走ってみて難しいと感じたのは、交差点での右折の仕方だった。電動キックスケーターは常に「二段階右折」をしなければならないが、交差点を直進し、左奥隅で直角に角度を変えるのは、車両の小回りが利きにくくコツが必要だった。
交差点を直進する時も注意が必要だ。一番左の車線の左端を走る決まりのため、左折レーンを直進するのは自転車と同じだが、後方から来て左折しようとする乗用車に認識されているか、巻き込まれないかと緊張した。乗用車のドライバーも、電動キックスケーターのルール、どのような動きをするのか知っておく必要があると強く思った。
また、車両進入禁止や一方通行の標識があっても「軽車両を除く」「自転車を除く」の補助標識があれば通行できるのは利点だが、交差点で大きな道に合流する時に車両用の信号がないと、少し戸惑ってしまう。曲がり方が分からないときは一旦車両から降り、手で押して横断歩道を歩くことが推奨されており、その通りにするのが良いと感じた。
ヘルメットは「努力義務」
ヘルメットの着用は自転車同様に努力義務とされ、かぶらなくても交通違反ではない。しかし、自転車事故で死亡した人の多くが頭に致命傷を負っていることや、ヘルメットを着用していない場合の致死率が着用時と比べて高いのは事実だ。
公道での試乗で自信をつけた私は、インターネットでループの車体と同じグリーンの可愛らしいヘルメットを購入した。テレビCMで嵐の二宮和也さんがかぶっているオリジナルデザインのヘルメットも販売されている。
実際にサービス利用
ループは、ポートと呼ばれる専用駐輪場に置かれた車両をスマートフォンのアプリを使って借り、ポートからポートに移動する。利用には1回50円の基本料金と1分当たり15円の時間料金(いずれも税込み)がかかる。
車両の二次元コードを読み込み、返却するポートを選択。ライド開始のボタンを押すとゲームの起動音のような音が鳴ってわくわくする。返却ポートは後でも変更できる。
仕事の休憩中に軽食をとろうと、小倉北区紺屋町の毎日新聞西部本社そばのポートで借りて乗り、船場広場(船場町)のポートで返した。徒歩だと約15分かかるが、所要時間は7分とちょっと。料金は170円だった。帰りも同じで、滞在時間を考慮すると、周辺の駐車場料金の相場と比べて割安だ。
ポートが増えるほど利便性は高く
一方で、北九州市役所に移動した際は、市役所にはポートが現時点でなく、二輪車用の駐輪場に止めて一時的に鍵をかける操作をした。所用を済ませ、会社に帰るまでに借りていた時間は46分強。ポートに返却しない限り停車中も料金は加算されるので、755円となった。買い物などで一般の駐輪場に止める時には気を付けたい。観光など長時間利用を想定し3時間、12時間の乗り放題パスも販売されている。
最寄りの駅などから目的地までの「ラストワンマイル」を結ぶ新たな移動手段。ポート数は10月のサービス開始時点で、北九州市内は小倉北区中心部の17カ所(電動キックスケーター30台、電動アシスト自転車26台)。
ポートは、当初のあさの汐風公園(浅野3)▽北九州市民球場(三萩野2)▽北九州ソレイユホール(大手町)――などに加え、小倉北区役所庁舎(大手町)や船場広場(船場町)にも増設され、利便性は高まりつつあるが、期待に対してその数はまだまだ少ないと言わざるを得ない。
Luupと連携協定を結んだ北九州市は市役所庁舎や勝山公園、モノレール各駅付近など、より便利な場所へのポート設置の検討を進めている。Luup側も、ポート数を増やすため、活用したい空きスペースなどがあるオーナーを公式サイトで募集している。幅広い世代が乗りやすい車両の導入も検討しているという。サービスが街に定着していくか、注目している。【成松秋穂】
福岡県内の交通違反は増加傾向に
電動キックスケーターの普及が進むなか、福岡県内で交通違反の検挙件数が増加傾向にある。県警によると、改正道路交通法が施行された2023年7月から24年9月までの1年4カ月間に、県内では交通違反が335件検挙され、交通事故は2件起きている。
電動キックスケーターは一般的に「電動キックボード」と呼ばれ、改正道交法で、車体の大きさや最高時速20キロ以下などの一定基準を満たした車両が「特定小型原動機付自転車」と定められて16歳以上が運転免許なしで乗れるようになった。
県内では24年3月に福岡市、10月に北九州市でシェアサービスの提供が始まり利用は拡大している。
特定小型原動機付自転車は、最高速度を6キロ以下に設定し、緑色のライトを点滅させれば、標識などで自転車の走行が許可された歩道を通行できる。
違反で最も多かったのは歩道を時速6キロを超えて走行するなどの通行区分違反で、184件と全体の約55%を占めた。酒気帯び運転は49件で逮捕者も出ている。次いで通行禁止違反が36件。信号無視27件▽一時不停止18件▽定員外乗車違反11件――などが続く。
事故2件のうち、電動キックスケーター側が過失の重い「第1当事者」だったのは1件。最高速度6キロ以下で歩道を走行中、歩行者と衝突して転倒させ軽傷を負わせた事故だった。もう1件は、車道を走行中に乗用車と衝突し、電動キックスケーターの運転者が軽傷を負った事故で、車側に交通違反があった。物的な損害のみの物件事故の統計はない。
県警交通企画課は「乗る前に交通ルールを確認し、適正に利用してほしい。シェアリング事業者も利用登録時にテストを実施しており、利用者が『知らなかった』というのは無責任だ」と呼び掛ける。【成松秋穂】
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