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 岐阜県の県立高校で歴史の授業を教えている、教師14年目の西村祐二氏。仕事にやりがいを感じているが、ある悩みを抱えている。

【映像】身振り手振りを交え、演技しながら歴史の授業をする西村祐二氏(45)

「勤め始めた頃、月の残業100時間は当然のようにしていた。土日も授業準備、もしくは部活で休めない…」

 教師の過酷な長時間労働。授業以外に、部活動の顧問や学校行事、保護者への対応、経理業務など仕事は山ほどだ。全国の学校でいまだに残るこの問題に、西村氏は現役教師として覚悟を持った活動を行っている。

 それが「実名顔出しで教育問題を訴える」こと。当初はSNSで偽名を使って教育現場の課題を発信していたが、限界を感じ、およそ5年前からリスク承知の上、実名顔出しで活動するようになったという。教師生命に関わるリスクを背負いながら、待遇改善を求めて会見を開くなど奮闘する西村氏。

 そんな中、財務省が、公立の教師の給与形態である「給特法」について、業務時間を減らし、残業代の代わりに支払う上乗せ給料を月額4%から10%へ引き上げる見直し案を発表した。しかし、「教師の職責を軽視している」と文科省はじめ23もの教育団体から反発が起きるなど混乱は続いている。教員不足が叫ばれる教育現場で、今求められている改革とは。実名顔出しで活動する意義とともに『ABEMA Prime』で考えた。

■実名顔出しで教育問題を訴える、教師14年目の西村祐二氏(45)

 西村氏は関西学院大学卒業後、劇場や自主映画で俳優業をしていた。32歳のときに岐阜県立の高校教師となり、37歳のとき 「斉藤ひでみ」名義で、教育現場が抱える問題についてSNS発信を始めた。そして、40歳のときから実名顔出しで活動をしている。

 西村氏が、リスクを負ってでも実名顔出しで発信を続ける理由は、「本当に今の教育現場を変えたいと強く思うから」。きっかけとなったのは2019年。当時、教員の働き方改革に関する法律の改正があったが、「評価できる部分もあれば、できない部分もあって、これでは一層長時間労働がひどくなる」と危機感を募らせた。そこで「国会議員に直接訴えるため、匿名ではなく実名で訴えることを決意した」という。

 実名で顔出しした結果、国会議員からも「現役の先生がこれだけリスクを負って声を上げているのだから、声を聞いてあげよう」という反応が得られるようになったそうだ。

 一方で、「毎年3月に左遷されるのではないか」という恐れや、周りや生徒・保護者にどう思われるかという心配があった。しかし、「校長が評価してくれたり、子供からは『先生頑張ってね』」と励まされることもあったと語る。

 「顔を出したらどうなってしまうんだろう」と恐る恐るのスタートだったが、現在は世の中も変わりつつあると西村さんは感じている。実名と顔出しで訴え続ける中で「おかしなことを言われたこともない」と振り返った。

■教師の現状は「何から何まで定額働かせ放題」

 西村氏が特に訴えたいのは、「教師の長時間労働改善」「ブラック校則の廃止」「残業代が支払われない『給特法』の廃止・改善」だという。「小中高校の教師は持ち帰り残業を含めて月80時間以上の残業をしており、過労死ラインを超えている。死んでもおかしくない状況で働いている。何を削るかではなく、教師は何を大事にしないといけないのかを考えるべきだ」。

 環境副大臣・元デジタル副大臣、衆議院議員の小林史明氏は、イギリスでは「教員が担ってはいけない業務」が明確に決まっていることを紹介し、「(日本の)教員の仕事は何かを決めて、それ以外の仕事はやってはダメだと決めないと難しい」と指摘する。

 対して、西村氏は「おっしゃる通りで、日本の場合は例えば部活動、PTA関連の会計業務だ、ホームページ更新、最近だと、タブレットが学校に1人1台で配布されたが、生徒の全アカウントを先生の方でこう事務作業で振ったりなど、何から何まで定額働かせ放題だ」と訴える。

 小林氏は、教育行政の問題点として、残業問題の放置、教員の多様性の欠如、学校設立の参入障壁の高さを挙げた。さらに「教員の仕事が楽にならない1番の問題は、国が決めた政策を都道府県、市町村、教育委員会と下ろしていく仕組み」だといい、「ITの端末すら市町村ごとに調達しているため、本来不要なアカウント設定の作業が教師に発生している」と述べた。

■「残業代と労働時間がリンクしていない」

 小中高の教員600名におこなった、東洋経済education×ICT「給持法に関する意識調査」(2022年12月)によると、「長時間労働の常態化」「新しい教育や保護者対応など業務の肥大化」「給与面などの処遇」「休暇が取りづらい」などが挙がっている。

 「給特法」について、文部科学省は「人材確保のため賃金上昇が必要」として、教職調整額を現行の4%から13%に引き上げる方針だ。一方、財務省は「やりがいの小さい業務の削減を条件」として、教職調整額を段階的に10%にすることを提案。さらに残業代の導入も検討している。

 教育問題の研究・啓発活動を行う名古屋大学の内田良氏は、公立校の働き方改革が進まない理由を指摘する。「残業代と労働時間がリンクしていないため、管理職に予算がないのに違法労働させてしまうという焦りがない」のだという。

 また、「公立校では違法状態ではなく合法になっている」といい、「いざ残業代を厳しく支払う方向になると、管理職が身構えてしまう。長年蓄積されてきた労働時間と賃金のリンクを抑えるシステムが、教育界には根付いている」と話す。

 小林氏は「小学校段階から教科担任制を導入し、『担任は運営に専念した方がいい』という改革が進もうとしている」と説明。しかし、その一方で「根幹の問題には触れられそうにない」とも語った。

 西村氏は「教員の労働時間を現状の6〜7割まで下げる必要がある」。イギリスの例を引き合いに「(日本も)国がトップダウンで、これはやってはいけないと示してもらった方がいい」と訴える。これに対し、小林氏は「我々がちゃんと頑張ります」と返答した。

(『ABEMA Prime』より)

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