大阪府守口市で日本酒店を営む40代の夫婦が、クエやイシダイなどを使った新手のヒレ酒づくりを研究している。微細な気泡「ナノバブル」で魚をきれいに洗って捨てていたヒレを活用できるようにしたもので、商品化まであと一歩。SDGs(持続可能な開発目標)にも通じる発想は、店を悩ませたあるコストの削減策がきっかけだった。
乾燥させたキジハタのヒレが入った冷酒を口に含むと、うまみが口の中に広がった。今までに飲んだことがあるフグのヒレが入った熱かんは渋みがある印象だったが、こちらは柔らかでマイルド。えぐみや臭みもほとんどない。
「魚のアミノ酸が日本酒にうまみを足してくれる」。大阪メトロ守口駅近くの日本酒の専門店「酒やのまえだ」のマネジャー、石原武さん(45)は説明した。クエとイシダイのヒレ酒や骨酒も試作品が完成。材料は、日本酒を楽しめる新店舗で酒肴(しゅこう)として出す刺し身など魚料理の残り物を使うことを想定しているという。
石原さんは同市育ちで、幼少のころから先代と顔なじみ。大人になると店の常連になった。スポーツトレーナーなどをしていたが、先代から「後を継いでやらへんか?」と声をかけられ、妻の和歌子さん(40)と一念発起して2014年に屋号はそのままにして、角打ちができる日本酒専門店を開業した。
店は約100銘柄の日本酒を扱い、4坪ほどの店頭には銘酒がずらりと並ぶ。夫婦は商売は初めてで本やインターネットで独学で経営を学んだ。新鮮な魚は客から教えてもらった島根県の隠岐諸島から仕入れるようにした。
経営課題の一つが、生ゴミなどの事業系一般廃棄物の処分費用の削減だった。守口市にある石原さんの店の場合は10キロ1070円で、大阪市に比べて高い。店では毎月50キロほどの魚のゴミを出し、処分費用は月5500円ほど。石原さんは新店舗もオープンし、処分コストは年40万円を超える見込みという。
そこで、ゴミになっていた魚の骨などの有効活用を模索。目をつけたのは、酒蔵でも洗米時に使われることがあるナノバブルだった。きめ細かい水泡を含む水の洗浄力は抜群だ。下処理をした魚をナノバブル入りの水に約10分間つけて汚れを落とし、調理後に残ったヒレを乾燥させた。磯臭い匂いが大幅に減ったという。「骨酒」も含め、ゴミの量は1割減らすことができるようになった。
事業拡大に必要になるナノバブルを作る装置のための投資は250万円以上かかる。国税庁が日本の酒類のブランディングや海外展開する企業を支援する補助金事業にも公募し、今年度の採択事業者に選ばれた。採択事業者は新商品を開発するメーカーなどが多く、個人が選ばれるのは珍しいという。
ヒレ酒や骨酒は使う魚の種類や部位、日本酒の種類によって組み合わせの数は膨大になっていく。まずは店頭でおすすめの日本酒とヒレや骨をセットで販売することを目指す。ゆくゆくは組み合わせをまとめた冊子を作ったり、インターネットで販売したりすることも考えている。
日本の伝統的な酒造りは11月に国連教育科学文化機関(ユネスコ)が無形文化遺産に登録するよう勧告するなど、世界でも注目が集まる。石原さんは「外国ではSAKE(日本酒)がはやっている。ワインのように単品でお酒を楽しむイメージで、日本酒の新しい楽しみ方も広まってほしい」と意気込む。店舗の情報はインスタグラムで発信している。【長沼辰哉】
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