北海道の鈴木直道知事(右)に文献調査報告書を手渡した原子力発電環境整備機構の山口彰理事長=道庁で2024年11月22日午後4時17分、片野裕之撮影

 原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定に向けた北海道寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村での文献調査は開始から4年超を経て報告書完成に至った。次のステップである「概要調査」移行の判断は地元首長の判断となる。住民からは報告書完成に「丁寧に調査した結果」「性急だ」と賛否の声が上がった。

 神恵内村は2020年9月、商工会が村議会に文献調査の応募検討を請願した。商工会員の稲葉寛久村議(74)は「思っていたよりも長く時間がかかったが、十分な調査をして機が熟したということだろう」と推察する。

 原子力発電環境整備機構(NUMO)は調査の期間について、文献調査2年程度、概要調査4年程度、精密調査14年程度とした。村は概要調査への移行の賛否を問う住民投票を検討しており、稲葉村議は「何としても早くやるということでなく、時間をかけて村民の理解をより深めることが大事だ」と話した。

 住民投票の実施は条例の制定が必要だ。村幹部は今後について「制定にも時間がかかる。国が首長に意見照会するまでのスケジュールは分からない。状況を見るしかない」とこぼした。

 文献調査を巡っては能登半島地震などで浮上した新知見の取り扱いが議論の的になり、報告書に「情報収集に努め、それに基づいて評価した」と明記された。だが、北海道教育大の岡村聡名誉教授(地質学)が10月、寿都町内の火山噴出物「磯谷溶岩」は概要調査の対象外とすべき「第四紀火山」の可能性があると発表。NUMOは「文言調整の最終段階」などとして報告書にこの知見を盛り込む姿勢を見せなかった。

 処分場誘致に反対する寿都町のペンション経営、槌谷和幸さん(75)は「4年も時間をかけたのに、新知見が出た途端、焦るように次に進んだのでは。安全を第一に考えていない」と批判。寿都町は住民投票で概要調査移行の賛否を問うと決めており、「投票でノーを突きつけるしかない」と語った。

 6月に北海道の2町村に次いで国内3カ所目の文献調査が始まった佐賀県玄海町の脇山伸太郎町長は、2町村に報告書が提出されたことを受け「成り行きを見ながら今後の対応を考えたい」と注視する考えを示した。

 調査受け入れに関わった町議会原子力対策特別委員会の岩下孝嗣委員長は町が全国的な議論喚起を目的に文献調査を受け入れた経緯を強調したうえで「調査の対象が3カ所というのは少ない。国やNUMOは全国に働きかけて対象を広げてほしい」と求めた。【片野裕之、五十嵐隆浩】

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