11月13日〜17日に開催された、経産省主催のイベントが話題だ。実家でこたつを囲む5人。一見よくある家族の風景だが、実は3人(父母姉)は疑似家族。あとの2人は、家族の介護を考えることを目的に企画されたイマーシブイベント「ただいまタイムループ」の参加者だ。「久しぶりの帰省」という設定以外は何も知らされず、家族団らんから一転、物語に巻き込まれていくことに。
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突如、部屋に現れた未来人から伝えられるのは、母親が認知症を発症するということ。症状はかなり進み、姉が仕事を辞め介護に専念。その後、介護をめぐるすれ違いから、仲の良い家族関係が急速に悪化する未来が待ち受けているという。そんな最悪の結末をタイムループしながら回避する、というのがこのイベントだ。
参加者に与えられるのは、「印鑑と通帳の保管場所」「口座の暗証番号」を聞き出すという2つのミッション。しかし、強引に進めようとすると、家族関係が悪化する結末に向かっていく。そうなったらタイムループし、未来人のヒントを元に再チャレンジする。
参加者に聞いてみると、「介護のことはやっぱり家族で話さないと駄目だなと再認識させられた」という声だけでなく、「イマーシブが好きで、謎解きも好きなので参加した。自分の家族と似ている感じがして、それがなんか…」と涙を流す人も。
イマーシブ×介護という斬新な組み合わせで、5日間の予約枠はすぐに埋まった。経済産業省ヘルスケア産業課で課長を務める橋本泰輔氏は「コンセプトは『介護を“個人の課題”から“みんなの話題”に』。家族の中で、介護をより話題として取り上げていただくきっかけになれば」と述べた。
■あれよという間に両親が施設に「コミュニケーションを取れる場面はあったのに…」
まさにイベントのようなケースを経験したのが、「はあとふるライフサポートケア」代表の後藤知広氏。2017年に80代の両親が介護施設に入所(母:認知症や歩行困難などで要介護4、父:糖尿病などで要介護3)。IT系企業の管理職をしていたが、頻繁な救急搬送で呼び出しを受け、両立が困難になり約半年で離職する。その後、2020年9月から10月にかけて両親が他界。2021年に介護タクシー運転手に転身し、のちに独立開業した。
後悔しているのが、介護の話を両親としなかったこと。母の認知症悪化により介護・治療・葬儀などに本人の意向を反映できなかったほか、年金額を知らず費用の高い施設に入居させたことで貯金が大幅に減少してしまった。後藤氏は「母が認知症になる前、子どもを連れて毎月のように実家で食事をしていた。たくさんコミュニケーションをとる場面はあった」と振り返る。
今回の経産省のイベントについては、「非常にすばらしい。来年からは2025年問題といって、団塊世代が高齢者になる時代がやってくる。団塊ジュニア世代に“将来こうなる可能性がある”と認知度を広めていっていただけたら」と期待を込めた。
親になかなか話し出せない場合に有効だというのが、イベントにも登場したエンディングノート。何かあった時、家族に必要な情報を残すためのノートで、名前や生年月日などの基本情報、連絡先、財産、遺言書の作成有無などを記載する。
後藤氏は「日々を重ねていくうちに考え方も変わっていくと思う。エンディングノートは一回書けば終わりではなくて、何回も書き直していける。生きたい希望を残しておくノートになっているので、ぜひ広まってほしい」と訴えた。
■親子での会話に壁 “子→親”だけでなく“親→子”も
介護について親子で話し合った経験があるのは、親世代が16.5%、子世代が25.2%。きっかけを子世代に聞くと、「親の病気や介護に迫られてから」が46.8%を占める(出典:ダスキン ヘルスレント「親子で向き合う介護レポート 2024」)。
17年の専業主婦を経て65歳で起業した薄井シンシア氏は、「うちの娘が話したがらない」と逆のパターンに直面したという。「娘には“親が弱っていく姿を認めたくない”という思いがあるのだろう。過去に“私がいなくなったら”という話をした時、『ママがいなくなったら業者に頼んで全部捨ててもらう』と言われて、大事なものが捨てられてしまうのはまずいなと思った。(イベントは)逆のパターンもほしい」と話す。
“介護”謎解きイベントの企画・運営に携わる、経産省ヘルスケア産業課で課長補佐を務める水口怜斉氏は、「親からも子からも、どっちもあっていいと思う。ただ、親御さんから切り出してもらうと子どもとしても話しやすいのでは」と同意。
また、親子の会話として「いきなり通帳や番号を聞くのはハードルが高い」とし、「例えば在宅か施設のどちらを希望するのか意向を聞いてみる。あと、住んでいる地域・周辺でどんな介護サービスが使えるのかをリサーチしておくこと。隣の市に良い施設があるという情報がわかっていれば、ケアマネージャーに伝えられ意向をくんでくれたりする。急にバタバタ始まった時に間に合わせでやると、施設が空いていないケースもある」と事前の心構えを伝えた。
さらに、こうした取り組みを経産省が進めている理由と合わせて、水口氏は次のように必要な対策を語った。「介護が発生することで、働ける時間やパフォーマンスは下がってしまう。企業活動にもダイレクトに影響があるため、僕ら経産省がこれをやっている。親の介護が発生するのは40代、50代の方が多い。働いている方に対しては、職場経由での情報提供がまずは1つのやり方だと思う」「各市町村には地域包括支援センターという介護の総合窓口があるが、多くの方が存在を知らない。ここを知っているかどうかでだいぶ変わってくるが、情報アクセスが限られてしまっている。ここに対しても適切な情報を提供することが大事だ」。(『ABEMA Prime』より)
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