遺族に代わって散骨した後の海面に花びらを手向ける散骨会社のスタッフ=ハウスボートクラブ提供

 海に遺灰をまく海洋散骨を、遺族が立ち会わずに業者が代行する「代理散骨」が増えている。遺族が一緒に乗船するより安価で、「墓じまい」で出た遺骨の供養先としても人気だ。

 一方、墓地への埋葬を想定した現行法に散骨の規定はない。専門家は、代理散骨が遺骨の処分目的になってはならないと警鐘を鳴らす。【岡田英】

「お金かけず、まとめてまきたい」

 「セレモニーを重視して(遺族が)乗船するプランを中心にやってきたが、安価にできる代理散骨を要望する方が増えてきた」

 全国で海洋散骨を手がけるハウスボートクラブ(東京都江東区)の赤羽真聡(あかば・まさとし)社長は、そう明かす。

 海洋散骨のサービスを始めたのは2007年。船を貸し切る「チャーター散骨」と、複数の家族が乗り合う「合同散骨」が主軸だ。

 しかし、19年に154件だった代理散骨が23年には350件と、わずか4年で2・3倍に増えた。ハウスボートクラブが手がける散骨全体(粉骨含む)に占める割合も25%から40%に伸びた。

 代理散骨の料金は遺骨1柱当たり5万5000円。29万7000円からの「チャーター」、16万5000円からの「合同散骨」に比べると安い。

 高齢や体が不自由などの理由で遺族が乗船できない場合もあるが、赤羽社長は「やはり費用を抑えたいという方は多い」と語る。

 ニーズの高まりを踏まえ、ハウスボートクラブは23年10月、代理散骨の出航場所を2倍以上の33都道府県40カ所に広げた。

 流通大手イオンの子会社で葬祭事業を手がけるイオンライフ(千葉市)でも、代理散骨の実施件数が17年から23年の6年で3・3倍に増えた。遺族が乗船するプランもあるが、23年に実施した海洋散骨のうち8割は代理散骨が占めているという。

 最大の要因は、墓石を撤去する「墓じまい」の増加という。代理散骨の基本プランは1柱当たり6万6000円で、担当者は「墓じまいで取り出した遺骨を、できるだけお金をかけずにまとめてまきたいという相談が多くなっている」と説明する。墓じまいで出た複数の遺骨をまとめて散骨することを想定したプランも用意している。

簡略化プランも登場

 代理散骨はどういった手順で進むのか。

 イオンライフの基本プランでは、依頼者は遺骨を「ゆうパック」でイオンライフが提携する業者に送付する。遺骨は洗浄・粉砕して水溶性の袋に入れられ、希望地の沖合に運ばれ、業者がまく。

散骨後にまかれた花。しばらく海面を漂っていた=千葉県勝浦市で2024年10月5日午後2時28分、岡田英撮影

 散骨は、遺骨7柱が集まった時点か、送付から3カ月以内に実施される。依頼者には後日、散骨場所を記録した証明書や記念アルバムが送られる。

 競合する業者が増える中、イオンライフは10月末、記念アルバムや献花などの付帯サービスを簡略化して価格を4万4000円に抑えた新たなプランも始めた。

 子供や配偶者がいない「おひとりさま」が自らの死後の弔いとして、代理散骨を親族らに希望、委任するケースも目立ち始めているという。

 担当者は「今は墓じまいがメインだが、あと数年すれば『おひとりさま』のニーズがさらに増えるのではないか」と見る。

専門家「散骨目的の確認を」

 散骨はかつては、刑法の遺骨遺棄罪に触れる恐れがあるとされ、一般に実施されていなかった。しかし、1991年に「葬送の自由」を訴える市民グループが神奈川県沖で散骨。この際、法務省の担当者が「葬送のための祭祀(さいし)で節度をもって行われる限り違法ではない」との見解を示したと報じられ、広がるきっかけとなった。

 代理散骨が増える現状について、葬送に関わる研究者と実務者でつくる「日本葬送文化学会」の碑文谷創常任理事は「散骨は、遺骨処分が目的なら刑法に抵触しかねない。どんな意図で散骨したいのか、本人や遺族の意思を事業者はより丁寧に確認する必要がある」と指摘している。

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