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 危険性の高い高速度運転や酒気帯び運転であっても、「危険運転致死傷罪」が適用されないケースが多くある。

【映像】これが過失?時速100キロ超の衝突事故(実際の映像)

 2024年9月、埼玉県川口市の市道で一方通行を逆走した車が、走行中の車に激突し、ぶつけられた車を運転していた51歳の男性が亡くなる事故が起きた。速度は時速100キロ超で走行していたとみられている。

 逆走車を運転していた18歳の中国籍の男は「飲んでから3時間たっているので大丈夫だと思った」と供述したという。

 警察は当初、より罰則の重い「危険運転致死罪」にあたるとして送検したが、さいたま地検は、危険運転には問えないと判断し、酒気帯びと過失致死の非行内容で家裁に送検した。

 元検察官で弁護士の西山晴基氏は、罪状によって「かなり法定刑の差がある」と指摘する。危険運転致死傷罪の場合は「懲役20年」が最高刑だが、過失運転致死傷罪は「7年以下の懲役・禁錮または100万円以下の罰金」と大きく異なる。

 川口のケースが過失致死となった理由について、西山氏は逆走した一方通行が「2輪を除く」とされていたことから、「危険運転致死傷罪での“通行禁止道路”に法律上当たらない」と説明する。

 法令では通行禁止道路について、「当該道路標識等により一定の条件に該当する自動車に対象を限定して通行が禁止されているものを“除く”」としている。そのため「2輪を除く」の補助標識のある一方通行道路は、危険運転致死傷罪を問う場合の「通行禁止道路に当たらない」と解釈できる可能性がある。

 加えて西山氏は、条文の「進行を制御することが困難な高速度」に着目し、「一直線なので、速度が速くても、『進路がコントロールできない事案』に当たりにくい。裁判にかけても危険運転致死罪の認定は難しい結論になったのでは」と推測する。

 交通問題評論家で元弁護士の加茂隆康氏は、危険運転を定義する法律そのものに問題があると指摘する。「曖昧模糊(もこ)としている危険運転致死傷罪の構成要件を明確にして、誰にでもわかる法改正が必要だ。拡大解釈を何でも当てはめて重く罰する考え方は、基本的に取らない。常識では考えられないスピードを出していれば、まっすぐに走っていても、『制御困難な高速度』と認定すべきだ」。

 危険運転致死傷罪の誕生は、1999年に起きた死亡事故がきっかけだった。家族4人で東名高速道路を走行中の乗用車にトラックが衝突し、後部座席に乗っていた3歳と1歳の子どもが犠牲になった。トラック運転手は当時、飲酒していた。

 この事故で2人の娘を失った井上保孝さんは、「娘たちはすやすや寝ていただけ。殺人罪と何ら変わりはない」と振り返るが、当時適用できる罪状は、業務上過失致死傷罪しかなく、求刑は懲役5年となった。しかし、「判決は懲役4年。量刑不当として控訴してくれたが棄却された」という。「殺人罪は無期懲役も死刑もあるが、業務上過失致死傷罪は何人あやめても、最高刑が懲役5年だった」。

 井上さん夫妻は37万以上の署名を集め、2年後の2001年に危険運転致死傷罪が施行された。井上郁美さんは「当初は懲役15年までだったが、20年まで引き上げられた。途中からオートバイでも適用できるようになった。画期的な法改正があった25年間だ」と語る。一方で変わらないこともある。「遺族が自ら検察庁に訴因変更してくれという、危険運転致死傷罪そのものに問題がある」(井上保孝さん)。

 2021年に大分市で起きた事故では、当時19歳だった男が時速194キロで走行し、男性が死亡した。検察は当初、「過失運転致死罪」で起訴したが、遺族の署名活動などで「危険運転致死罪」に訴因変更された。しかし裁判で、被告側は「過失運転」は認めているが、「危険運転致死罪には当たらない」と一部否認している。

 西山氏は「遺族の声に応えられない苦しい思いをしている」と、検察官の心情を推し量る。加茂氏も「検察はよく言えば慎重だが、悪く言えば腰が引けている」と評する。裁判所の判断にばらつきがあることから、法務省はアルコール検知の量や、高速度の基準速度などを今年度中に正式決定するよう動き出している。

 しかし井上さん夫婦は、定量化に不安を覚えている。「数値だけで決められるような簡単なものではない。『これ以上は一発アウト』と適用しやすくなる事件もあるが、それ未満には全く適用できない。足切りされてしまうことがないようにしてほしい」(井上郁美さん)。

 罪状の違いについて、加茂氏は「過失運転致死傷罪は『うっかりミス』。危険運転致死傷罪は『わざとやった』」と解説する。法務省の有識者検討会は「最高速度の2倍や1.5倍」や、アルコールは「呼気1リットルあたり0.15グラム以上」といった数値設定案を出している。

 なぜ検察の動きが遅いのか。「検察官は被害者の代弁者であるべきだ。署名活動がなくても、積極的に危険運転致死傷罪の適用を考えて、起訴するべきだ」とした。量刑については「裁判所は厳罰を考えるべきだ。10人以上が亡くなっても懲役20年というのは国民感情に反する。法改正を検討する際に、『無期刑もあり』と検討すべきではないか」と提唱した。

(『ABEMA的ニュースショー』より)

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