財政検証の議論に臨む社会保障審議会年金部会の委員や厚生労働省幹部ら=東京都千代田区で2024年7月3日、宇多川はるか撮影

 政府は、厚生年金保険料の一部を基礎年金(国民年金)の給付に充て、基礎年金の給付水準を底上げする案の導入に向け、与野党と近く本格的な協議に入る。基礎年金の給付水準は3割高まる見通し。ただ、将来的に兆単位の国庫負担が生じるので、財源確保が課題だ。来年の通常国会に提出を目指す公的年金制度の改革関連法案に盛り込みたい考えだ。

 厚生年金は保険料を18・3%で固定し、保険料収入の範囲で給付を調整している。現役世代の減少と平均余命の延びを勘案した調整率を用い、賃金や物価の上昇幅よりも年金額の伸びを低く抑える仕組みになっている。これをマクロ経済スライドという。

 現状のままだと、マクロ経済スライドで減額する期間は、厚生年金だと2年後の2026年度に終了する。女性や高齢者の労働参加が進んで加入者が増え、財政が安定していることなどが影響している。

 一方で基礎年金は33年後の57年度まで続く。デフレ下で条件が整わず減額されない期間があったためだ。現行のままでは、基礎年金のみの自営業者やフリーランス、厚生年金が少ない低収入の会社員らは老後に低年金になる恐れがある。

 今回の改革案では、厚生年金保険料の積立金の一部を基礎年金の給付に充てることで、基礎年金を減額する期間を21年前倒しし、終了のタイミングを厚生年金とそろえ、36年度とする。この前倒しで基礎年金の給付水準を3割上げることができる。

 ただ、課題もある。基礎年金の財源の半分は国庫負担で賄われている。減額が終わる36年度から給付水準が上がるため追加財源が必要となる。追加財源は40年度に5000億円、50年度には1兆8000億円と見込まれている。安定財源の確保策についても与野党で議論して、一定のめどを付けたい考えだ。

 厚生労働省は、65歳以上の人で賃金と厚生年金の合計が月50万円超なら超過分の半額を厚生年金から減額する「在職老齢年金(在老)」を見直す。基準額を50万円から60万~70万円台に引き上げる検討に入る。

 厚生年金は月収に応じ32等級に区分された標準報酬月額に保険料率を掛けて負担額を算出している。現行等級は65万円が上限だが、75万~80万円に引き上げる案を検討する。いずれの見直しも25日に開かれる年金部会で議論される見通しだ。【宇多川はるか】

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