道警による街頭啓発で配布された闇バイトの注意喚起チラシ=JR札幌駅で2024年11月15日午後4時19分、後藤佳怜撮影

 「簡単なお仕事 高額バイト」「暮らしを少しでも楽にしてみませんか?」。SNS上にあふれる甘い言葉に誘われた「闇バイト」による、強盗や特殊詐欺などの事件が後を絶たない。その背景には、陰で主導する指示役を摘発する難しさだけでなく、軽い気持ちで応募してしまう実行役の存在もあり、警察は警鐘を鳴らしている。

 札幌市で10月、金に困り闇バイトに手を出した20代男性による空き巣と強盗が発生した。

北海道警による街頭啓発で闇バイトの注意喚起チラシを配布するボランティア(左)=JR札幌駅で2024年11月15日午後4時14分、後藤佳怜撮影

 「どこかで大きく勝負して、借金をリセットしたかった」。道警の調べにそう語り、闇バイトに応募したことを明かしたのは川崎市の建築作業員、鈴木陸容疑者(25)=強盗罪などで起訴。10月上旬の札幌市南区の空き家での窃盗事件と、同市豊平区の住宅での強盗事件で逮捕された。道警によると鈴木容疑者は「闇バイトはニュースなどで話題になっていて、大きく稼げると思った」とも供述。甘い認識が事件につながった可能性が高い。

 南区の空き巣事件では、面識がない鈴木容疑者を現場まで送ったとして札幌市北区のタクシー運転手、三田兼輔容疑者(24)も逮捕された。2人は秘匿性の高いアプリで指示役とやりとりしたとみられる。捜査関係者によると鈴木容疑者は「アプリ自体を消した」と供述しており、指示役を検挙して事件を根本的に解決することの難しさがうかがえる。

 6月末から7月上旬には、小樽市や千歳市などで息子をかたって金をだまし取る「オレオレ詐欺」が3件発生。被害者はいずれも80代女性で、「既婚者を妊娠させてしまい、中絶費用や慰謝料が必要だ」というシナリオを信じ込まされていた。

 一連の事件に関与したとして、札幌手稲署と道警組織犯罪対策企画課は神奈川県茅ケ崎市の無職、武藤秀被告(24)=詐欺罪で起訴=を逮捕。さらに、東京都足立区の無職、木本康寛容疑者(31)も二つの事件で逮捕した。武藤被告は現金を受け取る「受け子」、木本容疑者は「現金回収役」だったとみられる。

 捜査関係者によると木本容疑者は、10月に横浜市青葉区で発生した強盗殺人事件の現金回収役とされる女性(30)=強盗殺人容疑で逮捕=の夫で、夫婦で闇バイトに絡んで各地の事件に関与していたとみられている。

 ほとんどの闇バイトの入り口になっているのがSNSだ。札幌市南区の空き巣事件に関与した2人もともに、SNSで闇バイト求人の常とう句である「即日即金」と検索していたという。

北海道警察特殊詐欺対策室によるXの投稿への警告=スクリーンショットより

 道警はこうした犯罪の芽を摘もうと、X(ツイッター)でサイバーパトロールを行っている。裏バイト▽受け子▽即金▽運び――などのキーワードに目を光らせ、不審な投稿には特殊詐欺対策室が警告。「犯罪の実行犯として捕まるまで利用されます」などと画像付きで返信している。

 10月からは「応募してしまった方へ」という文章も追加。指示役らに個人情報を握られ、家族に危険が及ぶことなどを恐れる人も保護するために「勇気を持って抜けだし、警察に相談を」と呼びかけている。

 警告数は年々増加し、今年は10月末時点で昨年の約1・4倍の1269件に達した。背景にあるのは、SNSで緩やかに結びついて離合集散を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ(通称・トクリュウ)」による犯罪形態の拡大だ。

闇バイトを募集する投稿への警告件数

 トクリュウ犯罪の捜査を担う道警組織犯罪対策1課の原薫士次席は「以前は特殊詐欺が中心だったが、近年は、話術や演技力などのスキルやマニュアルがより必要ない強盗に広がった」と指摘する。

 原次席は「例えば強盗致死罪の法定刑は無期懲役か死刑と非常に重いが、実行役にはその認識がない。無知なまま応募すると高収入を得るどころか、駒使いされ切り捨てられるだけだ」と強調。「どこの誰の指示かも、報酬が支払われるかも分からない求人を信用しないで」と呼びかけている。【後藤佳怜】

大型バールで複数回たたいても穴が空かないセコムの新型防犯ガラス=同社提供

防犯の問い合わせ、北海道で前月の6倍に急増

 首都圏を中心に相次ぐ強盗事件では、複数人で押し入り、暴行の末に住人の殺害に至るなど凶悪な事案も目立つ。防犯や警備サービス事業を展開するセコム(東京)には、報道を見た市民からの問い合わせが増えている。

 同社によると、道内の10月の新規問い合わせ総数は前月の約6倍に上った。一連の事件の被害者に高齢者が多いためか、中高年層や高齢の親と離れて暮らす人からの問い合わせが多いという。

 警察庁によると昨年、戸建て住宅に侵入した窃盗被害の手口では、無施錠箇所からの侵入の次にガラス破りが多かった。

 防犯ガラスとフィルムに関する同社への問い合わせも前年10月から約42倍に激増。セコムコーポレート広報部の竹内昭彦課長は「ホームセキュリティーサービス導入などの工事は、通常の約2倍の期間、お待ちいただいている」と話す。

 2022~23年の「ルフィ」などを名乗る指示役らによる広域強盗事件を受け、セコムは大型バールでの破壊にも耐えうる新型防犯ガラスを今年5月に開発した。竹内課長は「こっそり侵入する従来の手口と違い、最近は力ずくでガラスを壊す事件が多い。強引な手口に対応できるサービスのニーズが高まっている」と分析する。【後藤佳怜】

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