厚労省の人口動態統計によると、今年6月までの上半期の出生数は32万9998人。このままのペースなら、年間で70万人に届かない可能性が高くなった。
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2016年に100万人を割り込んで以降、過去最少を更新し続ける出生数。岸田前総理は2030年代までをラストチャンスと訴え、異次元の少子化対策を推進。政府は財源3.6兆円規模の「こども未来戦略方針」で、児童手当や育児休業給付拡充、出産費用の保険適用など、あの手この手を打ち出し出生率を上げようとしており、予算の倍増も目指している。
「少子化とその結果生じる人口減少は、国の根幹に関わる課題。いわば、静かな有事だ」(石破総理、10月4日)
ネット上には「産まない理由は金だけじゃないよな」「金だけで産むとでも思ってんのかな」などの声も。お金を出せば子どもは増えるのか。少子化対策について『ABEMA Prime』で議論した。
■第3子以降に1000万円支給案「10万人増えて1兆円。やってみればいい」
法政大学経済学部教授の小黒一正氏は、第3子以降に対して、児童手当をやめて出産一時金1000万円を支給する案を提示する。「結婚して子どもを生んでいる数自体は、1970年ぐらいからほぼ2人で変わらない。6割が結婚して2人産むと、出生率は1.2というのが現状だ。ここで結婚する割合を8割にしても1.6で、人口減少は続く。逆に生む数が3.5人になれば、6割でも2.1になる。結婚する人を増やすだけだと難しい以上、異次元の対策として第3子以降に一時金1000万円を給付したらどうか」。
また、18歳までに1人当たり750万円程度が国の政策でかけられているとした上で、「18年間で750万円もらうか、生まれた時に一括で750万円もらうかだと、後者のほうがインパクトがある。これで10万、20万人増えた時の負担は1、2兆円で、こども未来戦略方針の財源3.6兆円の範囲内で収まる。やってみて効果があればいいし、増えなかったらやめればいい」と訴えた。
しかし、これにニッセイ基礎研究所・人口動態シニアリサーチャーの天野馨南子氏は否定的な見方を示す。「既婚者対策で、未婚者には全く効果がない。2020年に埼玉県が若者に行った調査で、3子まで産んでようやく褒められるという考えは受け入れられないことがわかっている。夫婦円満でそもそも3子が欲しいと思えるかがあるし、3人目の命を預かることには非常に慎重になる。そんな中で1000万円と言われても、かえって冷めてしまうのが母親としての実感だ」。
TAZ代表で政府「こども未来戦略会議」の委員を務めた高橋祥子氏は、「これまでの政策で結果が出ていないことが全てだと思う」と指摘。「こども未来戦略会議では、若者の経済状況の改善、キャリアと育児で二者択一になってしまっている社会構造、育児支援の3点が認識されている」「他国だと、女性の労働参画率が増えるほど家計が安定して、出生率も上がっていく。しかし日本は逆で、それは働くか子育てするかのどちらかだからだ」と述べ、構造改革の必要性を訴えた。
■日本は「女性の心が折れるような雇用市場」「若い人に寄せた対策を」
天野氏の訴えは、「未婚化対策こそ少子化対策のカギ」。「夫婦が持つ子どもの数は50年変わらないが、出生数と婚姻数はきれいに落ちている。“カップルなくして出生率なし”というのは統計的事実だ。また、結婚したい人が8、9割いるという水準は30年前と変わっていない。変化しているのは理想とするライフコースで、今の若者は夫婦同士で経済的に支え合う形を最も選択している」。
背景をこう説明した上で、「日本はOECD38カ国の中でも下位の、20%以上の男女の賃金格差がある。要は、心が折れるような雇用市場を用意しているような状況だ」「今50代以上の人で若い頃に夫婦共働きを支持していたのは1割ぐらいで、そうした人が経営者や管理職になっている。この価値観の格差に気づいて、労働市場を若い人が希望している形態に寄せていく対策があってのばらまきではないか。子どもを生んでくれるのは若い世代であって、中高年ではない」と主張した。
経済学者で慶應大学名誉教授の竹中平蔵氏は「経済的インセンティブは間違いなく重要。一方で、非常に大きな構造問題があり、日本は選択的夫婦別姓すらできない。出生率が2.07を下回ったのももう50年前で、こうなることはわかっていた。労働市場改革も今の政府にはできないという意味では、1兆円で実験してみたらどうか」との見方を示す。
これらを受け、小黒氏は「一番重要なのは機会費用で、“女性も男性も育児をしながら働くのは難しい”という問題も両建てでやらないといけない。ただ、夫婦で2人生んでいる現状で人口増加に転じることは不可能だ、ということを申し上げている」とした。
■「地方で20代男性が余っている」「都の『TOKYO縁結び』は大当たりのやり方」
少子化対策の議論において、天野氏は地方と都市部の人口動態の不均衡が大きな課題だとも指摘する。「東京一極集中の構造では、男性よりも女性が東京に集まってくる。地方では20代男性が余ってしまって、製造業の街では20代男性が女性の1.2倍もいるような状況だし、富山は4倍、石川は5倍女性がいなくなっている。こんな状況で若い人が結婚できるわけがない」。
こうした移動が起こるのは就職時で、小黒氏によると「大学で東京に来るのは15%もいなく、就職段階が85%」だという。天野氏は「女性に残ってもらわないことには、どんなに頑張っても焼け石に水。しかも、長男跡取り文化が堅固にある。私が“未婚化に向き合え”と言っているのは、今までのやり方では地元が潰れるとわかってくれるからだ」と述べた。
そんな中、東京都の「TOKYOふたりSTORY AIマッチングシステム」は評価できるものだという。「地元の友達や親族の紹介も切れた状態の人は、東京で出会いがない。そんな中で“やってほしい”というオーダーがあったのは、信頼性のあるマッチングアプリ。都が9月から『TOKYO縁結び』というAIマッチングを始めたが、統計的にはかなり大当たりのやり方だと思う」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)
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