福井県坂井市にある東尋坊。国内随一の自殺の名所とされ、40年間で834体の遺体が見つかっている。この地で20年以上にわたり自殺防止活動を続ける、NPO法人「心に響く文集・編集局」理事長の茂幸雄氏。これまで自殺を考え東尋坊にやってきた846人を保護してきた。
【映像】自殺名所でウロウロしている男性に話しかける茂氏(80)
それはつい最近も。茂氏は「高校2年生の女の子がベンチに座っていた。声をかけたら“自分のじいちゃんに強制わいせつされている。怖くなってもう死ぬしかない”と」。その女性は保護され、現在は本人の意思によって、児童相談所で過ごしている。
自殺防止活動に対し、SNSでは「死ぬ権利を奪うな」「自殺を止めないで」といった声も一定数ある。茂氏のもとにも直接批判の声が届くというが、目の前の命を絶対に助けるのが茂氏の信条。さらに、自殺を止めるなら、その後の生活まで支援する覚悟が必要だと考えている。先進7カ国で最も自殺率が高い日本だが、“自殺を絶対に止める”という考え方について『ABEMA Prime』で考えた。
■自殺者を保護する活動をしている茂氏
2003年、茂氏は福井県警三国(現坂井西)警察署の副署長だった。その当時、約80人の自殺未遂者を警察で保護し、聴取した。
茂氏は「平成15年の1年間は東尋坊で勤務していた。自殺の名所ということもあり、その年は21体の遺体と向き合った。数多くの遺書も読んできたが、誰一人として本当に死にたいと言う人はいなかった。みんな『死にたくない、死ぬのは怖い、助けてください』と言っていた。この声がなぜ届かないのか。これは放っておくことができなかった」と振り返る。
その後、2004年3月の定年退職を機に、同年4月にNPO法人「心に響く文集・編集局」を設立した。経緯について「警察官の場合、法律で決まっている民事不介入の原則があり、本人が助けてくれと言わないことには介入できない。特に警察官が保護した場合、家族もしくは福祉機関に引き継がなければならない。自殺や自殺未遂は犯罪ではないからだ。となれば、本人が抱えている悩みを聞いて解決することができない」と説明した。
NPOが管理するシェルター(緊急避難所)では6部屋を確保し、保護した自殺企図者の中で住居や生活費のない人を案内し自立までを支援している。これまでに170人程(長期利用者の場合)が利用した。
東尋坊で声を掛けるパトロールは「12名で3人のローテーションを組んで行っており、毎週水曜日だけ休みをもらっている」そうだ。パトロールでは断崖絶壁の岩場や茂みをくまなく確認。人目を避け、一人でいる人を多く保護している。
保護したら、根本の悩みを解決するところまで付き添うのか。茂氏は「それをしなければ駄目だ。生活保護や、借金があったら自己破産すればいいとか、そんなのは知っている。ところが自分の心の問題で歩けないとなれば、一緒にそこまで行く」との考えを述べた。
それはどれくらいの期間か。「1週間もしくは、通常1カ月半ぐらいだ。遺書を持って来ている人、ロープや薬まで持って来る人でも1カ月半くらいで再出発している」と答えた。
■自殺を考えていた ケンさん(51)
3年前、ケンさんは借金が原因で自殺を考え、東尋坊へ向かった。「原因は4000万くらいの借金。死に場所をさまよって保護されたというかたちだ」と当時を振り返った。ギャンブルや不動産投資で借金を抱え、取り立てから逃げるために東尋坊を訪れたという。
そこで茂さんに「何しているのか。自殺しようと思っているのではないか」と声を掛けられた。ケンさんは「とりあえずもうどうしようもなかったという気持ちがあった」が、「保護された時、他人なのに声を掛けてくれる人がいることに、ちょっと心がほっとした」。
その後、NPOの支援で自己破産・生活保護の申請、住居準備がなされた。現在は持病があるため働くことが難しく、生活保護を受給しながら月に数回NPOの手伝いをしている。ケンさんは「皆さんと会話できるのは楽しいし、心の安らぎになるので感謝している」と話す。
茂さんに対してケンさんは「あそこで声を掛けてくれたということに対して、感謝の気持ちしかない。こうやって今生きているのは茂さんのおかげだと思っている」と述べた。
■「必ず生きていて良かったと思うことがある」
「日本財団 自殺意識調査2023」によると、若者の2人に1人が「死にたいと思ったことがある」。自殺を考えている人への最近の主な支援は電話相談やチャット相談。
茂氏は「面と向かって話すのが一番いい」といい、「本人らが望んでいるのは、自分の悩み事をなんとかして取り除いてほしい。できるなら、自分たちを追い込んでいる人がいたら注意してほしい。自分の環境の調整をしてほしいのが、あの人たちの叫び声だ」と訴えた。
コラムニストの小原ブラス氏は、出身国のロシアでは、ロシア正教の信者の自殺率が低いことを紹介する。「最も罪の重いことが自殺なんだと子どものときから教え込まれているから、自殺という選択があまり出てこない思考になるのかと思う。もうちょっと自死を選ぶという選択に歯止めをかけるように、あまりよくないことだという価値観を広めてもいいんじゃないか」との見方を示した。
治せない病気などで、死んでしまった方が楽だと考えている人についてはどう考えるか。茂氏は「この活動を開始したとき、がんや余命宣告を受けている人が岩場に立っていたらどういう言葉をかけようかというのが最初の問題点だった。でも20年いて、余命宣告を受けて岩場に立っている人は一人もいなかった。みんな周りの人が注意してくれている」と答えた。
最後に自殺を考えている人に向けて、茂氏は「必ず言うのは、“生きてさえいれば必ず良かったと思うときが来る”と。“今の長いトンネルがずっと続くんじゃない。必ず終わりがある”。焦るな、慌てるな、人と比較するなと」とメッセージを送った。
(『ABEMA Prime』より)
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