日本人の生活には欠かせない存在になっている自動販売機。国内には約400万台も設置されているといい、その市場規模は4兆円と世界一を誇っている。その多くが飲料を販売しているものだが、今や商品は多岐に渡り、刺身や結婚指輪、仏像に温泉と、これまでのイメージを覆すようなものまで売られている。
【映像】エンタメ感たっぷり!オレンジ生搾り自動販売機
さらに近年では、オレンジを生搾りする様子を見せるなどエンターテイメント性も兼ね備えたものが設置され「第3次自動販売機ブーム」とまで呼ばれ始めた。『ABEMA Prime』では15年以上も自動販売機を追いかけ、飲料メーカーのコンサルティングなども務める生粋のマニア・石田健三郎さんに、様々な角度で質問をぶつけ、自動販売機の現状と将来を考えた。
■第3次自動販売機ブーム到来!
―第3次自動販売機ブームとは。
我々は今、第3次ブームの真っ只中にいる。第1次は1960年代。2つ大きな自動販売機が出てきた。1つ目はコカ・コーラ。アメリカから真っ赤なコカ・コーラの自動販売機が日本に運ばれてきて、それが街中に設置された。あれがモダンでかっこいい、自分も飲みたいとなった。自動販売機で飲み物、これがかっこいいというイメージがついた。
2つ目は、噴水型ジュースの自動販売機だ。上部に透明の三角フラスコみたいなものが付けられていて、そこにオレンジジュースが噴出している。紙コップが備え付けられていて、10円を入れると、チョロチョロとその分だけ出てくる。見た目も面白いので当時のお子様にウケた。
第2次が1970年代。長い自動販売機の歴史の中で、最も価値のある発明だと呼ばれている「HOT&COLD」の自販機が出てくる。本当に素晴らしい発明の一つで、日本が作った。
―HOT&COLDにすると電気代が余計にかかるのか。
一応、電気代は確かに高くかかるが、HOTで温めた熱を冷蔵に使うとか、冷蔵で出た熱をHOTに使うなど、循環式の仕組みができている。HOTとCOLDの切り替えはオーナーが決めている。
―中身は業者側の意向で変えるのか、設置場所側が変えているのか。
いろいろパターンがある。置いている家の人が自分で決めたいというケースもあるし、あるいはその自動販売機を補充している方が「ここにこれ入れたら売れますよ」という勘があって、それで入れたりする。あるいはその自販機のメーカーが「この商品を売りたいので入れてください」というケースもある。
―設置した場合、売り上げからどれくらい利益が入ってくるか。
飲み物であれば、だいたい20%とか30%あたりが入ってくる。
―第3次ブームとは。
2020年代に、付加価値がついた自動販売機が非常に増えている。生搾りのオレンジジュースの自動販売機を見かけた人も多いのではないか。買って40秒で出てくるが、絞られている様子がスケルトン窓から見えるのでお子様をお父さん、お母さんが抱っこして見せてあげると面白いと、エンターテイメント性が付与された。これはシンガポールから来ている。
―第2次ブームから第3次ブームの間の40年では何が。
1970年代から2010年代まで、いろいろなアップデートがあった。例えばペットボトルの登場などだ。昔は2リットルのペットボトルもあり、キャッシュレスにもなった。省エネ化がものすごく進んだ。東日本大震災の時に電力を抑えようと、メーカーがすごく努力したのが2010年代だ。
―これまでよりバリエーションが増えてきた。
自動販売機は単に24時間、便利に飲み物だけを売るというイメージだったが、高価格帯でブランド力をつけるなど、差別化を図っている。第3次ブームを引っ張るもう一つが、冷凍食品の自動販売機だ。これが1万台をした。2021年、まさにコロナ禍に登場して、めちゃくちゃ流行っている。ラーメンや餃子など1000円ぐらいするが、買って食べるとクオリティが高い。設置しやすく家庭用の電源100ボルトで動く。
―付加価値が大事になってきている。
付加価値だとエンターテイメント性もあるが、例えばガチャの要素を組み合わせた自動販売機もある。「肉ガチャ」なら、1000円入れると牛肉のどの部位が出てくるかわからない。1等が当たるとシャトーブリアンなどが出てくる。
―飲み物が出てくるだけでは満足できなくなっているのか。
要は販売チャネルがものすごく増えてしまった。コンビニエンスストアとかドラッグストアとか、あと通販もUber Eatsもある。そこでどう差別化していくかが重要になってきている。
―自販機の先進地域、ここから流行が発信されるというのはあるのか。
秋葉原とか羽田空港とかが多い。
―これは珍しい、という自動販売機は。
東京だと千駄ヶ谷に結婚指輪の自動販売機がある。私が見た時は9900円だった。生き物も法律上OKで金魚を売っている自動販売機が奈良県大和郡山市にある。金や銀が買えるものも、茅場町にある。
■次々登場!新ジャンルの販売機
―なぜここまで自動販売機に惹かれたのか。
見た目のかわいさが一つある。真っ赤や真っ白、真っ青など本当に単純な自動販売機を想像すると思うが、ご当地キャラクター柄にラッピングされていたり、そういったところもかわいい。置かれている佇まい、シチュエーションもだ。だだっ広いところに1台だけポツンと置かれているところに、寂しさというか侘しさにグッと来る。
―販売できないものは。
生肉はさすがにダメだと思う。冷凍してあればOKで、冷凍の刺身の自販機もある。
―自販機がインフラ的になっている時もある。
災害救援ベンダーというものがあり、災害時に飲み物を無料で取り出せるようになっている。自動販売機にハンドルが付いていて、それをぐるぐる回すと発電ができるものもある。
―薬はどう売るか。
一時期実証実験で新宿駅に置かれた。カメラがついていて、薬を買う時に薬剤師がカメラで繋がってOKを出すと売れる。実験が終わって、今実用化に向けて着々と準備している。離島などは非常に便利だ。
―今後への提案は。
自分で中身が選べる自販機があったらいい。例えばお弁当の自販機なら、おかずを20個、30個の中から選んで、自分でカスタマイズできるものがあればいいなと思う。ただ温かいものを中に入れないといけないという衛生上の問題と、種類が増えれば増えるほど自動販売機が大きくなるので、なかなか実現するのは難しい。
―自動販売機の値段は。台数は減少傾向にある。
買うと数百万円する。日本全国には自動販売機と呼ばれるものは400万台ある。(減少の)一番の理由は、採算が取れない自動販売機を今どんどん撤去している。今まではとにかく置けるところに置けという感じで、どんどん置いていた。ただ結局ここの自動販売機は売れないとか、自動販売機自体が古くなって、撤去を進めて今に至る。自動販売機自体が衰退したというよりは、単純に量から質の方にシフトしている。
―利用者は男性が多いのか。
男性の方が多い。
―物は何が売れているのか。
缶コーヒーが売り上げのトップ。缶コーヒーは男性が飲むイメージがある。
―たまにある飲み物「一律100円」は企業努力なのか。
自販機側が飲み物を大量購入して安く売るとか、独自のルートで仕入れて安く売るとか、そういったケースがある。
―日本の自動販売機を海外に輸出することはあるのか。
一応各国に輸出しているが、外に置くと持っていかれてしまう。壊せば現金も商品も取られてしまう。日本の治安の良さがあってこその自動販売機文化というのが、私の卒論の結論だった。
―自動販売機の補充、労働は。
自動販売機業界全体の課題だ。まず飲み物自体が重い、事業所でトラックに積むのも大変。どこの自動販売機に何本缶ジュースを補充しなければいけないかなどがある。今はオンライン(管理)が出てきているが、まだ手動の部分はたくさん残っていて、ただ1回自動販売機まで行って、中を開けて、どれだけ足りないかを見て、もう一回戻って持ってきて、というのが大変だ。これをオンライン化して、事業所から持っていく時点でも適正な本数だけ持っていこうという流れが今どんどん進んでいる。
―ユーザー側のデジタル化は何が進んでいるのか。
AIが分析するカメラがついている自動販売機がある。カメラの前を通る人の流れや、あるいはその中の商品の賞味期限を分析して、今なら安くした方が売れるだろうと、ダイナミックプライスにしてくれる自動販売機も出てきている。また防犯でも「見守り自販機」が出てきて、飲み物の1つがカメラになっている。また夜道を照らすのも防犯になっている。
―女性層の開拓は。
JR東日本だと女性専用車両の近くに女性のための自動販売機を置いている。常温の飲み物、水とかお茶をたくさんラインナップするなどだ。
―今後のトレンドは。
最新技術の結びつきは絶対出てくる。自動運転と組み合わせて、自動販売機の方から我々の方に来てくれる自走式などがある。補充も自動販売機の方から拠点に来てくれれば、ものすごく補充が楽になる。もう実証実験が進んでいる。
(『ABEMA Prime』より)
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