青森・津軽と東京・銀座がタッグを組み、津軽ブランドをもり立てる活動が始まった。良質な産品を多数抱えながらPRが苦手な津軽が、世界屈指の情報発信拠点、銀座で戦う老舗百貨店、松屋のノウハウを借りる試みだ。この4月には津軽初の統一土産ブランド「津軽たんげ」を打ち出し、地域活性化の先例として注目を集めている。【宇田川恵】
赤い金魚のねぶたと「津軽たんげ」の文字が書かれた鮮やかなパッケージの土産品が4月上旬、青森県内の主要駅などに一斉に並んだ。外国人旅行者や花見客らが興味深そうに手に取っている。
「津軽たんげ」は、津軽の14市町村で作る観光地域づくり法人「クランピオニー津軽」(理事長は桜田宏・弘前市長)と松屋が共同開発した。「たんげ」は津軽弁で「すごい」という意味。特産のリンゴを使ったアップルパイやシードル(リンゴ酒)など15品でスタートし、徐々に品数を増やす予定だ。
津軽と松屋の出会いは、新型コロナウイルスの感染拡大で「青森ねぶた祭」が中止になったことがきっかけだった。松屋は本店のショーウインドーなどに全国の伝統工芸を取り入れた装飾を施しているが、ねぶた祭の中止を知り「ディスプレーで祭りを見せたい」と考えた。地元の協力もあおいで2021年の年末、ねぶた祭をイメージした装飾を展開。コロナ禍の銀座を明るく照らし、青森の人を元気づけた。これを機に交流を深め、クランピオニー津軽と松屋は23年1月、観光推進の連携協定を結んだ。
津軽には、大量生産品とは違う独特な産品が多い。例えば、創業110年を超える弘前市の食品メーカー、カネショウは、地元産の完熟リンゴを丸ごとすりおろして発酵・醸造し、3カ月以上も木だるで熟成させたリンゴ酢を作っている。同市の桜田市長は「津軽には、たんげめぇ(すごくおいしい)ものがたくさんある。しかし、とにかく発信力が弱い」と話す。
そんな津軽の産品を国内外に売り込むには統一ブランドが効果的だ、と松屋が提案した。同社の柴田亨一郎IPクリエイション課長は「地方で何かを作ろうとするとたいてい東京っぽくなってしまう。しかし、きれいで洗練されたものでは広く受け入れられず、良い意味でのダサさや素朴さが必要だ。一方で地域の人が違和感を持つものでもダメで、津軽の人と十分話し合えたからこそ、良いブランドが生まれた」と話す。
「津軽たんげ」は今後、銀座などでも大々的に販売し、世界に向けてもPRする計画だ。
一方、伝統工芸品の「津軽こけし」も進化を始めている。津軽こけしは版画家、棟方志功が生前、「わが国一番のこけし」と称賛したとされるが、地元では「古い」というイメージが強く、全国的な知名度も低かった。
しかし産地の黒石市は何とかもり立てたいと熱望し、松屋は幅広い世代に好まれるには新しいデザインを取り入れるべきだと主張。2体を合わせると一体化するユニークなこけしを提案し、向き合った2人の顔がつぼに見える現象「ルビンのつぼ」に見立て、「ルビンのこけし」と名付けた。
市や地元の職人らがこれに賛同し、「ルビンのこけし」と名付けて生産を開始。22年秋の発売直後から大評判となり、黒石市はふるさと納税の返礼品にも採用した。今では人気で生産が追いつかず、返礼品でしか手に入らない状況だ。
ルビンのこけしに関しては、職人は仕事と収入が増え、松屋は企画に対してのロイヤルティー(使用料)を得られ、黒石市は納税が増えて街を活性化できるという、好循環が生まれつつある。
黒石市の高樋憲市長は「古くから伝わるものには強みがある。それを守り切れるかどうかが今を生きる私たちにとって重要だ」と話し、松屋と連携しながら伝統を生かした街づくりを進めたいという考えを強調した。
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