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 「トゥレット症」という障害がある。自分の意思に反し、体が動いてしまう「運動チック」や、声が出てしまう「音声チック」の症状が続く。介護現場で働く酒井隆成さん(24)も、その一人だ。

 大学生時代の2019年に『ABEMA Prime』に出演すると、大きな反響を呼んだ。大学卒業後も、多くの困難を乗り越えて、活動の幅を広げている。現在も病気に向き合う酒井さんの5年半を振り返りながら、どんな生活を送っているのか聞いた。

■無意識に体が動く、声が出る「トゥレット症」とは

 よくトゥレット症に加えて「チック症」という単語も聞くが、どういう症状なのか。東京大学医学部附属病院・金生由紀子准教授が監修した説明によると、必要以上のまばたき、顔をしかめる、ジャンプ、モノや人に触る、首ふりなどの「運動チック」と、せき払い、鼻鳴らし、奇声を発する、言葉を繰りかえす、汚言症(卑猥、ののしる)などの「音声チック」がある。これらが1年以上続いて、運動チック・音声チックの両方があると「トゥレット症」と診断される。

 トゥレット症の原因として、脳内回路の異常や、神経伝達物質の異常が関係していると言われている。経過は、4〜6歳での発症が多く、10〜12歳でピークとなるのが典型的だ。多くは成人までに改善する。

 運動チックは「人によって症状が違うが、ジャンプしたり、体に力が入ってしまったりする。自分の顔を叩く症状がある人は、それで骨折することもある」と、酒井さんは説明する。「トゥレット症の中に、チックが入っているイメージだ。チックは幼少期に多いと言われているが、治らずに重症化してしまうとトゥレット症になる。大半は年齢を重ねるごとに治まっていく」。

■5年半前に番組出演もネットで誹謗中傷「変な切り取り方をされて寝込んだ」

 酒井さんは、2019年4月の前回出演時、1人暮らしの大学2年生(19)だった。仕送りで生活し、カウンセラーになるべく心理学を猛勉強していた。24歳の現在は、彼女と同棲しつつ、訪問介護の事業スタッフをしている。TV・新聞など様々な媒体に出演するようにもなった。

 前回の放送直後は「変な切り取り方をされて、アップされて、1カ月寝込んだ」という。「覚悟の上で出演したが、最初はしんどかった」とする一方で、「全く後悔はしていない。誰かがやらないと進まない。たまたま僕だったと受け止めている」とも語る。「SNS拡散や取材で広まりつつあるが、ABEMA出演がきっかけの一つになった。トゥレット症の子を持つ親から『希望が持てる』とのコメントが増えている。活動の意味はあった」。

 酒井さんの出演を見て、当事者からは「同じ症状に悩む仲間がいると心強かった」「社会から隠れずに生きる姿に奮起できた」、親からも「立派な大人になれるのだと安心した」「大人になっても症状が残る実情が辛い」という反応があった。

■覚悟の出演から生活一変 就職成功&恋人も

 5年半前の『ABEMA Prime』出演から、生活は一変したという。就活に苦戦する酒井さんをスカウトしたのは、マツノケアグループ代表の松野竜一氏だ。「こういう人もいるのだと、最初はビックリした。メディアに出る勇気に感銘を受けて、『全ての可能性を引き出す』という企業理念を体現してくれると思い、ツイッター(当時)でDMを送った」と振り返る。

 採用した理由として、「ファーストペンギンになる勇気」を挙げる。「社会人未経験のため、最初の指導はいろいろあったが、2年経って『障害当事者として同じ目線に立てる強み』を生かして活躍している」。

 松野氏もまた、吃音症で就活に苦しんだ経験がある。「(酒井さんから)吃音のまねをされるが、楽しいしお互い様だ。面接に来た人に驚かれることはある」。入社にあたっては「社会人経験がなく、知らない病気を持っているから」と、反対の声が多かった。しかし「頑張る過程で、障害の有無関係なく、認めてくれるようになった。今では管理職でムードメーカーだ」という。利用者には、酒井さん自身が事前連絡するが。「症状を説明して、了承いただけるか確認するが、拒否されたことはない」そうだ。

■「夢はいっぱいある」「障害を言い訳にしたらもったいない」

 酒井さんには「夢がいっぱいある」というが、その一つがグループホームの開設だ。「仕事探しと同様に、住める家を探すのも大変だ。木造建築では周囲に響き、鉄筋コンクリートでは振動する。よく『地方に住めばいい』と言われるが、そうすると仕事がなくなる。仕事があるところに、家を建てれば、問題は解決できる」。

 機運の高まりは感じている。「当事者が集まる交流会の参加者が、どんどん増えている。話題も“つらさ”から、未来に向けた“夢”に代わりつつある。認知が広がり、社会が歩み寄ってきてくれている。我々も意識を変えないといけない」と意欲を見せた。

 そして酒井さんは、「障害は体のいい言い訳にもできてしまう。それはもったいない」と語る。「たまに『成功しているから言えるだけだ』と言われるが、やりたいことは言わないと実現しない。幸せだと思えば、幸せに向かっていくと思っている」。
(『ABEMA Prime』より)

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