北海道栗山町のヤングケアラーに関する出前講座で講師を務める高橋信センター長と、挙手して発言をする児童たち=町立栗山小で2024年9月24日午前11時21分、谷口拓未撮影

 家族の介護などで周囲の人を無償で支える「ケアラー」をいかに孤立させず、支援に結びつけるかが全国的な課題となっている。人口約1万人の北海道栗山町は、2021年4月に町ケアラー支援条例を市町村としては全国で初めて施行し、対策に取り組む先進的な自治体だ。長期的な対応が必要なこの課題に、どう向き合っているのか。

 もしお母さんが骨折し、なかなか治らなくて、何でも1人でしないといけなくなったらどうしますか。みんなの周りに、家族のためにお世話を頑張っている友達がいるかもしれない。どんなことができますか――。

 9月下旬。町立栗山小の4年生約60人を前に、町児童センターの高橋信センター長が問いかけた。子供が家族の介護や世話に追われて自分のことを後回しにするといった問題をはらむ「ヤングケアラー」について、身近なこととして考えてもらう出前講座の一幕だ。

 自分が当事者となったことを想像した児童からは「ほかの家族と協力して家事をする」「(自分の状況を)友達に知ってもらう」といった声が上がり、友人の場合では「友達を手伝う」「(友達の状況を)お母さんに相談する」などの考えが披露された。

 ケアラーを支援につなげるには情報の把握が重要となる。町は23年度に始めたこの出前講座を通じ、周囲に相談したり助けを求めたりする意識を芽生えさせたいという。

 町福祉課の社会福祉士、大家洋志さんは「ヤングケアラーの問題は家庭内で収まってしまう例がある。困った時に子供から発信してもらえるきっかけになれば」と願い、「逆に大人はいかに気がつくか。学校の先生にも改めて意識してもらう機会にしてほしい」と話す。

北海道栗山町が開いたヤングケアラーに関する出前講座で、自分の考えをワークシートに書き出す児童たち=町立栗山小で2024年9月24日午前11時15分、谷口拓未撮影

 町福祉課職員で子育て支援センター長の宮林葉月さんは「大人は見ている、気にしている、ということを伝える目的もある」と説明する。町内の中学、高校でも年内に順次、内容を発展させた講座を開催する予定だ。

 町の23年度調査では、町内の小中高生の7・4%がヤングケアラーで、小中学生は全道、全国の平均よりも高い割合だった。町内の小学生から「家族の世話がつらい」とのメッセージが町に届いたこともある。

 その時は家庭への介入はしなかったが、町は担任教諭に様子を注視するよう要請した。宮林さんは「メッセージは『見守って』のサインだと受け取り、慎重に対応した。みんなでケアラーの問題を自分事と考え、本人や周囲に声を上げてもらわなければ、私たちも気がつくことができない」と振り返る。

「ケアラーズカフェ」も設置

 栗山町の若年層を含めたケアラー対策は、10年に町社会福祉協議会が行ったケアラー調査から進んだ。当時の調査では960世帯(約15%)にケアラーがいて、そのうち約6割が体調不良を訴えたという。町として取り組みを推進する必要があるとして、条例制定につながった。

 町は出前講座を進める一方、実態調査から施策を検討し、「ケアラー支援推進計画」を策定、更新しながら取り組みを進めている。役場前にはケアラーズカフェ「サンタの笑顔(ほほえみ)」を設置。常駐するスタッフやその場に集う仲間に、気軽に相談できる拠点となっている。

 とはいえ、ケアラー対策は道半ば。大家さんは「探りながらでも、小さなことでも積み重ねることが大切。いずれ支援の必要な人につながることになれば」と話している。【谷口拓未】

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