独立行政法人・国立病院機構大牟田病院(福岡県大牟田市)で発覚した身体障害のある入院患者らへの性的虐待を巡り、外部の有識者でつくる第三者委員会は1日、調査報告と再発防止の提言書をまとめ、病院側に手渡した。調査対象の虐待などの行為を目撃した職員がいながら通報が機能せず、個人の資質の問題と共に、病院全体について「障害者の人権を守る意識が極めて薄弱」と指摘した。
第三者委は、患者の被害申告を受け、虐待の把握や居住自治体への通報をした病院側が設置。弁護士や社会福祉士ら4人で構成し、2024年3~7月に病院職員ら20人に面談するなどした。
調査報告や記者会見での説明によると、虐待には、特定の患者が繰り返し狙われたケースがあった。虐待行為に関わった職員はいずれも男性で、全身の筋肉が弱る難病・筋ジストロフィー患者や重症心身障害者の入院病棟などで勤務。調査対象の虐待や虐待が疑われる行為にはいずれも近くで目撃した職員がいたが、「言ってもきちんと処理されるとは思えない」という意識の他、「仲間を売るようなことをする人がいる」という言葉が職場内で交わされるなどし、通報への意識や自覚が欠如していたと結論づけた。
会見で第三者委の委員長を務めた永尾広久弁護士は「表にならないことでひどい状況が続いたのは問題」と指摘した。懲戒手続きに該当する行為でありながら職員や上司を適正に処分していないとして、病院を統括する国立病院機構九州グループの指導・監督責任にも言及。病院では10年前にも虐待事案があり、研修を実施したが、再び重大な人権侵害を起こしており、永尾委員長は「(研修に)実効性がなかった」と述べた。
再発防止策として、通報制度を職員に周知・徹底▽患者と同性の職員や複数人で介助ができるような人員配置――などを提言した。川崎雅之院長は「障害のある方に対する人権尊重の意識が欠けていたことと、虐待を発見できなかった病院の体質が課題。体制を改善し、二度と虐待を起こさない」と述べた。
大牟田病院の虐待を巡っては、自治体による調査で、職員4人が関与して20~70代の男女9人が受けた被害を障害者虐待防止法に基づく虐待と認定。県警が9月、男性看護師1人を暴行容疑で、元介護職員の男性2人を準強制わいせつや不同意わいせつの容疑でそれぞれ書類送検した。
筋ジストロフィーの患者らでつくる「日本筋ジストロフィー協会」代表理事、竹田保さん(64)は「患者としては、虐待があっても、それを伝えることによってここにいられなくなったり、居づらくなったりするのではという恐怖をいつも持っている。患者は病院を頼りにしているので、一緒に改善していきたい」と話した。【降旗英峰、山口響、森永亨】
識者「非常に深刻な事態」
職員による通報の機能不全などを指摘した第三者委員会の調査報告について、日本社会事業大専門職大学院の曽根直樹教授(障害福祉)は「病院が、虐待を容認する典型的な組織の状態にあったとみられ、非常に深刻な事態だ」と述べた。
曽根教授は典型的な状態として「院長のリーダーシップ不足や、通報、懲罰が機能しなかったことなど、組織のコミュニケーション上の問題が非常に大きい」と指摘。「病院は医療を重視した上下関係の強い組織になりがちだが、ケアをする福祉的視点を持ち、トップがきちんとした理念や倫理観を示さなければならない。一から出直すつもりで組織作りに取り組む必要がある」と話した。
また、調査報告は10年前にも虐待事案があった病院に対し「改善指導の義務を尽くさず漫然と指定更新した」として、福祉サービス事業所の指定権者である福岡県の問題も指摘。曽根教授は指導のあり方について「回数を増やすなどの改善が必要だ」と話した。【森永亨】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。