全国で相次ぐ高級車の窃盗事件です。独自取材で「闇名簿」の存在と違法な「東南アジアルート」が浮かび上がりました。
■高級車窃盗に特殊詐欺「闇名簿」が流用か
今年5月、千葉県印西市で撮影された防犯カメラの映像。目の前の道を犯人のものとみられる白い車が走っていきます。その3分後。同じ家から撮影された別角度の防犯カメラには。
「先ほどのレクサス(白い車)が後ろについて、うちのランドクルーザープラドが先行して出ていくところ」
映っていたのは、男性の愛車が盗まれ、走り去る姿でした。
(車を盗まれた男性)「あそこで寝ていて、(午前)4時に物音が聞こえて、10秒後に上から見下ろしたらもう無くなっていたという感じですね」
盗まれた車は2年前に700万円ほどで購入した限定モデルだといいます。去年、発生した車の窃盗事件は全国で約5700件。そのうち半数以上が関東に集中しています。さらにこんな犯行も。
(ホンダカーズ野崎 松本正美店長)「いやもう頭真っ白というかね。10台以上盗まれたなという、そんな心構えもないし」
先月、被害に遭った栃木県内の自動車販売店。犯行グループは事務所の鉄製の金庫を破り、中にあったスマートキーを使って車11台を盗みました。しかし協力者の助けもあり、2週間ほどで全てが見つかったといいます。すると取り戻した車のドライブレコーダーから犯行グループの手掛かりが見つかりました。
(ドライブレコーダーに残された音声)「あの車(オデッセイ)は高く売れる」
調べてみるとその音声は…ベトナム語でした。
(ドライブレコーダーに残された音声)「(大金だから)もうすぐベトナムに帰国できる」
相次ぐ車両窃盗事件の背景とは…番組は車両窃盗グループの内情に詳しい人物に接触。ある“リスト”の存在が浮上しました。
(車両窃盗グループの内情に詳しい人物)「元々は詐欺用のやつだ、振り込み詐欺とかアポ電詐欺の名簿なんだけど、付随してこの家に車とかあった場合にチェックしろというので作られた」
特殊詐欺で使われた“闇名簿”が車の窃盗にも流用されている可能性…。北関東などを中心に約2万6000件、個人名や住所、携帯番号などの他に4輪、トラック2輪などの文字が…
(車両窃盗グループの内情に詳しい人物)「工具っていうのは農機具の事を言っている。ベトナムとかの連中が廃品回収とかで回って見つけたのをリストにした」
■「闇名簿」周辺で人気SUV車が窃盗被害
番組はリスト情報をもとに群馬県内へ。取材を進めると証言を裏付ける様な現状が判明しました。
Q.どういう車種が盗まれた?
(車両盗難被害に遭った人)「ランクルなんですけど、朝起きたらもう無くなっていたっていう感じです」
人気SUV車を盗まれたという被害者、リストには斜め向かいの住所が掲載されていました。しかし周辺では気になることが…
(車両盗難リストの周辺に住む人)「廃品回収みたいな感じでくるんですけど、それも下見みたいで怖くて、トラックで来てゆっくり走っていて、しょっちゅう3カ月に1回とかそのくらいの頻度で来ます」
(車両盗難リストの周辺に住む人)「『使って無い物は無いか』ってよく外国人の人が来て、東南アジア系の人だと思うんですけど…」
不審な人物の目撃情報も浮上しました。
(自宅周辺で不審者を目撃した人)「うちのはこれ、アルファードとプリウスで」
Q.2台?
「はい…」
Q.不審な点はありましたか?
「県外ナンバーで普段見ない車がすごいスピードを緩めて通ったり、長い時間停まっていたりとか…」
不審に思い家主が撮影した動画には、遠くに停まった白い車から男性が降りて住宅の敷地に入る姿や、家の周辺を車で周回する様子が捉えられていました。
(自宅周辺で不審者を目撃した人)「かなりスピードも遅くてキョロキョロしながら進んでいる感じで」
Q.道に迷ったという感じでもないのか?
「はい、全然(家の周辺を)何周かして帰るので、ここ行き止まりだから絶対行く必要ないんですけど…」
ある捜査関係者は「窃盗グループは“下見”をしたうえで、狙う車種や色を決めている」といいます。さらに犯行グループは自動車メーカーの社外秘マニュアルなどを入手し、盗難手口を研究している現状が明らかになりました。
(車両窃盗グループの内情に詳しい人物)「車の電子制御のドアロック、リモートロック、もちろんGPSも、どこに動作されているかというマニュアル」
Q.国内メーカーのマニュアルはほぼある?
「持ってる、持ってる…」
■“違法ヤード”解体や車台番号を打ち換えか
捜査関係者によると犯行グループは下見や実行犯、車両運搬、解体、など細かく役割分担が決まっていて、犯行手口も“高度化”しています。盗まれた車が運び込まれるのは“ヤード”と呼ばれる解体現場です。
「トビラやガラス部分すべて解体されていて、エンジン部分なども取り外されています」
過去に摘発された違法ヤードでは解体された多くの車が無造作に放置されていました。車の解体はどの様に行われているのか…ルールに基づき正規で中古車パーツなどを海外に輸出している会社が取材に応じてくれました。
Q.これは今どういう作業?
(株式会社CRS埼玉 峯田隆広・執行役員)「今まさにハーフカットと呼ばれる状態に仕上げている状態になります」
電動のこぎりを使い、ものの15分ほどで車が真っ二つに…この作業はハーフカットと呼ばれ、前側はこの状態のまま輸出し、後ろ側は主に鉄の原料として販売されるといいます。
(株式会社CRS埼玉 峯田隆広・執行役員)「エンジン(単体)の販売価格よりかは、金額としては高い。ヘッドライト、バンパーなどいろんな部品がくっついておりますので…」
日本の中古車は主に解体し部品として輸出される場合と車体その物を輸出する2つのケースがあり、盗難車を輸出する場合、巧妙な手口があるといいます。
(警視庁クラブ 石出大地記者)「盗難車は税関での輸入の許可が得られないことから犯行グループは格安で購入したダミー車両の車台番号をヤード内で盗難車に打ち換えることがある。ある捜査関係者は、盗難車のほとんどは、中東UAEや、東南アジアのタイに不正に輸出されているところまでは確認できているがその先は難しいと話していました」
Q.盗難車はどの国に輸出されている?
(車両窃盗グループの内情に詳しい人物)「大衆車に近い車はタイの国境地帯」
■ブローカー告白「車台番号ない」盗難車が流入か
なぜ“タイ”なのか…その答えを求め、番組はタイの首都・バンコクから約400キロ離れた小さな街に辿りつきました。
(藤富空記者)「たくさんの中古車が並んでいますね、そのほとんどが日本車なんですね。いろんな車種が停められています」
ミャンマーとの国境の街、メーソート。広大な敷地の中に、整然と並べられた日本の中古車。高級車から四駆まで種類も様々。なかにはこんな車まで…
(藤富空記者)「あちらに見えるのは日本の消防車両ですかね。『雲南ポンプ』と書かれていますね」
SUV等の人気車は600万円程で売られているといいます。しかしタイでは原則日本を含む海外から輸入した中古車を国内向けに販売することは出来ません。
(タイの保税地域管理者 ウィーラーソムキアット氏)「タイには日本の中古車を輸入できないのですが、私の場合は輸出が目的なんです。100%がミャンマーへの輸出ですね」
わずか50メートル程の川幅で隔てられた国境。そこでは…
(藤富空記者)「いま、ミャンマー側に中古車が届きました。あれは高級車ですね」
タイからミャンマーへ。日本の中古車の「再輸出」実態がありました。
(タイの保税地域管理者 ウィーラーソムキアット氏)「ミャンマーでは昔から日本車が使われていましたし、性能面や耐久性も抜群です。ヨーロッパ車と比べても日本車が好まれます。(国境地域の)富裕層はだいたいランドクルーザーに乗っていますね」
しかし、そのミャンマーは実は、日本からの中古車の輸入が禁止されているのです。つまり、船でタイからミャンマーに持ち込まれる日本の中古車は、正規の手続きを経ず、賄賂も横行しているといいます。あるブローカーは、そこに盗難車が流れている可能性があると言います。
(中古車ブローカー)「一部の車は盗難車の可能性があります。断言はできませんが、エンジン番号が付いていなかったり、車台番号がない車があるからです」
さらに盗難車に多く見られる特徴的なケースがあるといいます。
(中古車ブローカー)「スマートキーしかなく、内蔵されているサブキーがないものがある」
Q.それは“鍵がない車”があるということ?
「そうです」
Q.鍵がないまま輸入されているということ?
「そういうことですね」
内戦状態が続くミャンマー。国境地域では犯罪組織が暗躍しており、無法地帯となっている現状があるといいます。
(中古車ブローカー)「(盗難車なんて)誰も知りようがありません。あちら側が買いたいと言えばこちら側で用意する、どこから送られてきたとか、この車は盗難された車かどうか誰にもわかりません」
9月29日『サンデーステーション』より
▶「サンデーステーション」公式ホームページ
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