58年前、静岡県で起きた通称“袴田事件”で、無罪判決です。

袴田巌さん(88)は、一家4人を殺害したとして、死刑判決が確定しました。ただ、袴田さんは獄中から無罪を訴え続け、それを信じて疑うことがなかった姉・ひで子さんとともに戦ってきたのです。

事態が動いたのは2014年。再審開始の決定が出され、釈放されます。しかし、検察の不服申し立てなどもあり、実際に再審・やり直しの裁判が始まったのは、去年のこと。そして、26日、事件から58年を経て、静岡地裁で無罪判決が出されました。

淡々と読み上げられる判決文。普段は、被告人に向けて並ぶことが多い厳しい言葉が、捜査機関に向けられていました。

裁判長
「証拠には、3つのねつ造があると認められる」

再審開始の決定を最終的に決めた東京高裁は「証拠のねつ造の可能性が極めて高い」としていましたが、静岡地裁は、そこからさらに踏み込み、“ねつ捏造”と認定しました。

1つ目のねつ造は“自白”について。当時の取り調べの音声が残っています。否認を続ける袴田さんに、警察官は執拗に自白を迫ります。取り調べは1日平均12時間、続きました。

裁判長
「自白は、捜査機関の連携により肉体的・精神的苦痛を与えて供述を強制する非人道的な取調べによって獲得された。実質的にねつ造されたものと認められる」

2つ目のねつ造と指摘したのが、犯行時の衣類についてです。

検察側は、裁判が始まってから、現場近くのみそタンクから5点の衣類が見つかったと、犯行着衣として提出しました。

裁判長
「タンクに1年以上、みそ漬けされた場合には、その血痕に赤みが残るとは認められず、発見に近い時期に、捜査機関によって血痕を付けるなどの加工がされ、タンク内に隠匿されたもの」

また、衣類のひとつ、ズボンの端切れが袴田さんの実家から見つかったとされてきましたが、それも3つ目のねつ造だと断罪しています。

判決文を読み終えると、ひで子さんを証言台に呼び、こう語りかけました。

裁判長
「裁判所は、真の自由を与えることはできない。ただ、自由の扉をあけました。このあと検察の控訴によってしまる可能性がある。判決まで、ものすごく時間がかかったことについて、申し訳なく思う。これからも心身ともに健やかに過ごしてください」

判決言い渡しの時間、袴田さんは自宅で過ごしていました。

半世紀近く東京拘置所にいたことで、拘禁反応といわれる精神状態の悪化が、いまも続いています。

袴田巌さんの姉・ひで子さん(91)
「裁判長が『主文、被告人は無罪』と言うのが、神々しく聞こえました。私はそれを聞いて、感激するやら、うれしいやらで涙が止まらなかった。涙があふれ出てきておりました」

袴田さんを支えた弁護団は、検察には控訴せず、これ以上、真の自由を奪わないよう求めています。

弁護団・小川秀世主任弁護士
「控訴はしないで、この長い裁判に決着をつけることが、公益の代表者としての検察官の責任だと」

死刑が確定した事件で再審無罪となるのは戦後5件目です。これまでの4件は、いずれも検察は控訴をしていません。

今回は…

検察当局幹部
「無罪にすればいいだけで、ここまで書く必要があったのか。影響が大きい。だから、せめて無罪はひっくり返らなくても『ねつ造の可能性』までラインを引き下げるために控訴することはあるのかもしれない」

控訴期限は来月10日です。検察が控訴をしなければ、袴田さんの無罪が確定します。

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