山口県内の観光地、下関市の角島からほど近い所に店を構える「角島オズバーガー」(下関市豊北町)に連日大勢の親子連れやカップルが訪れている。8月下旬にオープンしたばかり。県の特産ブランド「関門ポーク」を100%使った本格バーガーが看板で、店を切り盛りするのは25歳の若き女性オーナーシェフだ。起業の転機となった亡き母への思いを胸に、バーガー作りに情熱を注ぐ。
下関市出身のオーナー、尾崎希菜さんはバーガー店を始める前は、職場を転々とし、夜間営業の飲食店でアルバイトする日々を送っていた。「飽きっぽい性格でした。数年前までフラフラした生活だった」と振り返る。
転機となったのは、2021年に最愛の母・加古さんががんのため59歳で亡くなったことだった。固定職に就かない自分を励ましてくれた母。悲しみに暮れながらも「しっかりしなくては」と逆に気持ちを奮い立たせ、漠然と思い描いていた、好きな豚肉を使ったハンバーガー屋を始めようと一念発起した。
しかし、「当初は全くノウハウがなかったんです」(尾崎さん)。豚肉を扱うハンバーガー屋はないかとインターネットで検索し、大阪に1軒見つけると、すぐに新幹線に飛び乗った。
大阪の人気店「ガクヤバーガー」のオーナーシェフ、飛松正輝さん(38)に半ば押し掛け状態で弟子入りを志願。飛松さんから許可を得ると、数日間にわたって店で修行し、下関に戻ってからもオンラインで調理法から接客に至るまで、飛松さんから事細かに指南を受けた。
22年6月、豊北町を拠点についにキッチンカーでの営業を開始。「尾崎(OZAKI)」の名前から、店名は「角島オズ(OZ)バーガー」に。県内を中心に時には福岡まで進出し、地道に固定客をつかんでいった。
店の知名度は次第に上がったが、キッチンカーで扱えるメニューは2品が限界。客とのふれあいも希薄なため、知人を介して紹介された豊北町の空き家での店舗営業に踏み切った。空き家は、漁港近くの平屋で、漁師の作業場として使われていた。ここを、父義博さん(65)の手助けを受けてリフォームした。
押し入れを解体して16人分のテーブル席を確保し、厨房(ちゅうぼう)やカウンターも整えた。内装にこだわり、祖父母宅から譲り受けたアンティーク家具や、椅子代わりのハンモック、レトロなラジオなどを設置し、落ち着いた空間に仕上げた。
店舗のバーガーメニューは試行錯誤の末に完成させた8種類。中でも濃厚卵を使った「エッグバーガー」は、食べる際にバンズをつかむと中の半熟卵から黄身があふれ、マイルドな味わいに。豚肉と相性のいいオレンジソースがアクセントになり、食べるほど食欲をかきたてる。ケチャップは規格外のトマトを使った自家製で、フードロスにも配慮した。
8月下旬に店をオープンすると口コミで評判が広がり、週末は行列ができるほど。それでも手を抜くことはなく、休日は商品開発に余念が無い。現在は、山口名物「瓦そば」から着想を得て、パティや錦糸卵などの具材を抹茶風味のバンズでサンドした「長州バーガー」を開発中。近日中の販売を目指す。キッチンカーでの営業も合間を見て続け、店で扱わないメニューを軸に「店とキッチンカー双方で楽しめるようにしたい」と貪欲だ。
まい進する愛弟子の姿に、師匠の飛松さんは「若い店主の姿を見て、刺激を受ける若者が出てくるだろう。オズバーガーの流れが地元で新たなカルチャーを生み出すことを期待したい」とエールを送る。
鉄板の熱さでサウナ状態のキッチン。調理にかける手間や、丁寧な接客は師匠の教えに沿ったものだ。母の死を境に、その悲しみから逃れようと走り続けてきたが、今はもう、くすぶっていた頃の飽きっぽい性格だった自分の姿はない。「頭の片隅にはいつも母がいる。安心してくれたらうれしい」。額の汗をタオルで拭うと笑顔をみせた。【橋本勝利】
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