子どもたちに第2の家を――。重い病気を抱える子どもと家族を支える施設ながら全国でまだ数少ない「子どもホスピス」の開設を目指す福岡のNPOが、年内に仮施設をオープンしようと「クラウドファンディング(CF)」で寄付を募っている。仮施設を急ぐ原動力には、日々成長する目の前の子どもたちへ、待ったなしで支援を届けようとする思いがある。
子どもホスピスは、小児がんや難病など重い病気の療養を続ける子どもが、看護師など医療・福祉の専門職の支援のもと家庭的な環境で遊びや勉強をしたり、友人と過ごしたりでき、家族向けにはレスパイト(休息)を提供する英国発祥の施設。医療の進歩で、先天性の病気や障害を伴って生まれても命をつなぐことができるケースは広がっている。ただ、入院となると、感染対策のため、子どもはきょうだいや友人との面会交流が難しく、在宅でも家族が医療的ケアなど介助の負担に直面しがちだ。
白血病で3歳の長男を亡くした福岡県飯塚市の内藤真澄さん(60)は、約2年にわたった入院中心の闘病生活を「子ども同士の関わりや遊ぶ機会がほぼなく、子どもも家族も社会から遠ざかった」と振り返る。九州に小児緩和ケアに特化した子どもホスピスがない中、内藤さんは「つながりや楽しい体験で子どもが成長でき、もし亡くなったとしても家族が共に過ごした場所として思い出を共有できる場を」との思いで、NPO法人「福岡子どもホスピスプロジェクト」の理事として施設の開設へ奔走してきた。
内藤さんたちの構想に共感し、2023年にNPO理事に加わったのが、療育支援や訪問看護などの事業を展開する「いちばん星」(福岡県新宮町)の堤健司代表だ。センターを利用する子どもや家族がそうした施設を必要としているのを肌身に感じていたからだ。
利用者の一人、福岡市の筒井こは音(ね)ちゃん(5)は、先天性の染色体異常症「13トリソミー」があり、生後約半年で気管切開。人工呼吸器を一日中使用し、胃ろうで栄養を取るなどして在宅で過ごしているが、両親や看護師の介助が欠かせない。
4人姉妹の末っ子で、長女心音(ここね)さん(16)ら姉3人はこは音ちゃんをかわいがる。2年ほど前の七夕には、次女花音(かのん)さん(11)と三女奏音(かなね)さん(8)が短冊にこう願った。「みんなでいっしょにおふろにはいりたい」「おとまりしてみんなでねたい」
自宅では、こは音ちゃんの介助スペースを確保するため姉妹が一緒に風呂に入ることは難しく、就寝時も医療的ケアが欠かせず布団を並べて寝ることがかなわない。母真央さん(41)は「暮らしのささいなことでも子どもたちに我慢させてきたことが多い」と語る。
福岡市内でのホスピスの適地探しが難航する中、少しでも早く子どもたちのニーズに応えるため、堤さんは自身が放課後等デイサービスなどの事業所で使う福岡県古賀市内の活動拠点を無償で貸し出すことを提案。NPOはこの場所を仮施設として整備することにした。
建物はもともと邸宅で使われた2階建ての洋館で、広い庭に芝生や砂場があり、屋内にはプレールームや複数の個室、キッチンや風呂場もある。ただホスピスとして運営するには内部を整える必要があり、資金集めのCFに乗り出した。
目標額は150万円。簡易浴槽や浴室用暖房機などの購入や運営費にあてる予定で、こは音ちゃんの姉たちが望むひとときの実現を目指す。CFは9月30日まで。NPO理事の山下郁代さん(60)は「当たり前の日常も、重い病気がある子や家族にとっては『夢』になっていることがある。夢をかなえるサポートをしたい」と意気込む。CFサイト(https://syncable.biz/campaign/6262)
寄付などで運営「コミュニティー型」開設へ 各地でも活動
小児緩和ケアは、病院や福祉施設が通常医療や福祉サービスと並行して取り組むほか、ケアに特化した子どもホスピスなどの施設で提供される。日本こどもホスピス協議会(横浜市)によると、大阪と神奈川にある2施設が、地域や企業からの寄付などで設立や運営費をまかなう「コミュニティー型」の子どもホスピスを開いており、福岡をはじめ北海道や愛知などでも同様の子どもホスピス開設を目指し、計十数団体が活動している。
こども家庭庁は2023年度、小児緩和ケアを提供する病院や福祉施設を含む子どもホスピスなどの実態調査を初めて実施し、190の施設・団体が回答した。このうち病院関連では、回答した78病院のうち6割が、子どもや親、きょうだい児それぞれに対する「心理的苦痛の緩和」をケアの課題に挙げた。また、有志が地域に設けた子どもホスピスなどの施設・団体は、自由記述で「資金集めが大きなハードル。安定的な財源、人や場所の確保が難しい」と運営の悩みを寄せた。
協議会によると、地域の子どもホスピス開設にかかる建築費は数億円にのぼる。一方、命に関わる難病を抱える子どもは全国約2万人と推定されるが、小児緩和ケアを必要とする子どもや家族の数や実態は把握されておらず、支援提供体制を整備する上で課題となっている。
事務局の飯山さちえさん(57)は「医療機関は治療がメインになり、遊びや経験など『生きる時間』(の充実)が後回しになりがち。生後間もない時期から緩和ケアを必要とする場合もあり、年齢に合わせた成長や発達を保障する場所として子どもホスピスは重要な役割を担う。必要とする子どもや家族の存在を認識し、支える社会作りも大切だ」と話した。【田崎春菜】
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