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 大阪で未成年者誘拐事件が発生。10代の未成年の少女3人を自宅に連れ込んだとして26歳の男が逮捕された。さらに、少女の1人が、急性薬物中毒の疑いで死亡。警察によると、容疑者の自宅からは約80錠分の咳止め薬の空き殻が見つかった。

【映像】10代のオーバードーズ経験者のデータ推移

 多量の薬を摂取する行為、オーバードーズ。近年では、若者による市販薬でのオーバードーズが問題となっており、中にはファッション感覚で行う人もいるという。この状況に、厚労省も20歳未満に対して一度に購入できる市販薬の量を制限することや、直接手に取れない方法で販売するなど、制度の見直しを進めている。

 しかし、この規制には「店舗を回れば大量の薬も入手できちゃうよ」「根本的な解決にはならないし、無意味だと思う」との声も上がっている。社会問題となるオーバードーズの背景にあるのは孤立や孤独とも言われる中、必要な対策について、『ABEMA Prime』で当事者と考えた。

■道頓堀のグリコ看板の下、通称“グリ下”とは

 大阪の女子高生が、咳止め薬のオーバードーズの疑いで死亡した事件を受けて、大阪府薬剤師会常務理事の佐野智氏は「咳止めの薬は、咳中枢に直接作用することによって、咳反射を抑制して咳を止める。薬の成分が麻薬や覚醒剤とよく似た化学構造式をしているため、多量に飲むと、脳が勘違いしてしまい、大変危険な行為になる。それによって腎臓や肝臓に障害を起こしたり、時には呼吸困難や多臓器不全を起こして、死に至ることもある。とても恐ろしいリスクと考えていい」と訴える。

 大阪では、道頓堀のグリコ看板の下、通称“グリ下”に未成年が集まり、オーバードーズをはじめ、暴行・違法行為・性被害などが問題となっている。グリ下に集まる若者を取材するライター・倉本菜生氏は「元々グリ下は、コロナ禍に生まれた。きっかけとなったのが、トー横界隈、トー横キッズという言葉の誕生だ。SNSを通じて、地方の子たちが、自分たちの地域でもコミュニティを作ろうと生まれた」と説明。

 大阪のグリ下、新宿のトー横の他に、横浜のビブ横、名古屋のドン横、福岡の警固界隈がある。倉本氏は「グリ下、それ以外の〇〇界隈と呼ばれるところに集まる子は、初期と今では性質が変わってきている」といい、「最初は家庭や学校に居場所がなくて、孤独感を抱えていた子、行き場のない子が集まっていた。それがSNSやメディアで広まるに連れて、観光目的で集まる子も増えていった。元からいた子は、見物で来た人を受け入れられなくて、グリ下から離れていく現象が昨年の時点で起こっていた」と補足した。

■オーバードーズ経験者の倉本菜生氏

 倉本氏自身も過去にオーバードーズの経験がある。小学生のとき、両親が別居。2人暮らしの母親からネグレクト・過干渉・DVを受け、中学生で繁華街に出入りするようになり、リストカットも…。高校では父と生活を始めるも、学校になじめず、不登校となった。そして、心療内科に通院し、処方薬と市販薬でオーバードーズを繰り返した。

 倉本氏は、オーバードーズのきっかけについて「母親との関係がうまくいかず、暴力をふるわれていた過去がある。そこから楽になりたくてリストカットを始めて、次に心療内科に通うようになったら処方薬を手に入れた。一気に飲むと楽になれるらしいという知識を得て、やり始めた」と明かす。

 母親の暴力については「刃物を振り回される、突きつけられることが日常茶飯事で、毎日怯えて暮らさなければならない感じだった。食事や、身の回りの洗濯はしないが、子どもの行動は監視する人だったので、携帯の中身を全部見られたりした。どこに行くにしても報告しないと家から出してもらえない。そういった息苦しさから逃れたくて、リスカやOD(オーバードーズ)した」。

 そこから立ち直ったきっかけには何があったのか。倉本氏は「オーバードーズとリストカット自体は、20代後半になるまでやめられなかった。きっかけは、今の仕事を始めたことで精神が安定してきたからだ。そもそもあまり破滅的な生き方をせずに済んだのだが、それは大学に行きたいという夢があったから。なんとしてでも大学に行って自分の好きなことをやりたい気持ちが中学生からあったので、それがなければ今どう生きていたか分からない」と答えた。

 オーバードーズについて、倉本氏は経験した頃と今を比べて「辛いことから逃げたい、現実逃避したい、楽になりたいという気持ちの部分は変わっていないと思う。私は今30代だが、10代の頃は今ほどSNSが発達していなかった。やるとなったら身近な友達か、一人でやるしかなかった。それが今ではグリ横などにいけば仲間がいて、お酒を飲むのと同じ感覚でオーバードーズを一緒に楽しめる」と話す。

 リディラバ代表の安部敏樹氏は「ファッションとしてのオーバードーズもある」といい、「カルチャーとミックスされたのはでかい。楽曲でオーバードーズを歌う人気曲や、アンダーグラウンドゲーム、映画など。いろんなコンテンツで、オーバードーズにまつわるものがミックスされ、若者の中で少しファッショナブルなかっこいいものとして、確立されているのは間違いない」との見方を示した。

■孤独な若者の解決策

 『国立精神・神経医療研究センター』によると、10代の市販薬への依存推移は、2016年の25%から、2022年には65.2%と上がっている。その中で厚労省ではオーバードーズ関連の医薬品を販売する際、「原則1個の販売」「購入者の状況確認・情報提供を義務化」「20歳未満は氏名・年齢等を確認」などの制度案を検討している。

 倉本氏は制度案について「元当事者としては意味がない」といい、「市販薬がなくなったら、別のものに手を出すと思う。現状、オーバードーズしている子は死んでしまってもいいから楽になりたいという思いが強いから、手を出してしまう。命に関わるから危険だよ、と呼びかけたところで、苦しんでいる当事者にとってはあまり意味がないと思っている」との見方を示した。

 安部氏は、解決策について「背景を理解していないと解決できない。今の子どもは非常に強く親に依存するようになっている。昔は学校の先生、友達、家庭では両親、おじいちゃん、おばあちゃんがいたり、おじちゃん、おばちゃんがいたり、家庭の中にも複数のステークホルダーがいた時代から、今の学校などは外のことは一切感知しないスタンスなので、学校の先生や友人関係を強く確保することは難しい」。

 さらに「親子関係が切れたら行き着くのは、グリ下やトー横となってくる。短期的にはグリ下みたいなところで、どうサポートしていくか必要だが、中長期で見ると、その手前で誰が手助けできるか。誰が新しい依存先として繋がれるか。何層にも重ねて作っていかないと、この傾向は当分変わらない」と問題視した。

(『ABEMA Prime』より)

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