夕日が沈む稲毛海岸を背景に、ラップに乗って歌う伊藤警部補=県警公式ユーチューブチャンネルから

 ♪警官が軽快なリズムに乗ってノリノリで歌う――。千葉県警は、ラップ音楽を通じて警察のリアルと誇りを伝える広報動画を製作し、公式ユーチューブチャンネル(https://www.youtube.com/watch?v=BdnO7C7_o_E)で公開している。企画したのは広報県民課の前係長で、9日付で流山署刑事課に赴任した伊藤博之警部補(43)。「県民に警察の活動を知ってもらうのと同時に、危険と隣り合わせで闘う警察官たちへの応援歌にもなれば」と狙いを語る。

 創立150周年を迎えた県警の2024年の重点目標「安全安心を実感できるくらしの実現(略してAJKJ)」をタイトルに掲げ、「人の優しさにつけ込む詐欺」「姑息(こそく)なトクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)との決闘(デュエル)」など、歌詞には近年多発している犯罪をユーモラスな表現で盛り込む。

 稲毛海岸(千葉市美浜区)や県警本部庁舎でロケを敢行し、伊藤さんや広報県民課の同僚らが出演。警察官募集のための業務紹介の映像も使い、約3分半の動画にまとめた。

 浦安市出身の伊藤さんは03年、県警に入った。我孫子や館山などの警察署の地域課や刑事課などに勤務。4年半前に広報県民課へ異動し、初めて本部勤務に。「今の自分にできることは何か」と自問自答する中で今回の企画を思い付いた。

 楽器演奏や作曲はできないが、歌詞なら書けるのでは。自身も好きでよく聴くラップを通じて発信すれば、若い世代の心に響き、警察官を志す人も増えるのではないかと考えた。

 作詞にあたっては、通勤時の電車内で思い付いたフレーズをスマートフォンにメモしていった。音源はインターネット上の著作権フリーのものを使い、8月30日に公開を始めた。

ラップの県警広報動画を企画した伊藤博之警部補=千葉市中央区で2024年9月6日午前10時51分、林帆南撮影

 歌詞には、警察署に勤務していた自身の経験も盛り込んだ。夜間の業務は栄養ドリンクで自らを鼓舞し、夜勤明けに報告書を書いていると、緊急事態が発生して慌ただしくなることもしばしば。曲では「Emergencyは日常茶飯事」「エナジードリンク チャンプルーでチャージ」と表現した。

 ラップの歌詞の題材は、社会への怒りや格差への抵抗などが背景にあるものが多い。今回の動画でも、つらさや大変さといった本音の部分も包み隠さず伝えることにした。「報われないことの方が多め」「茨の道かもしれない人生」というフレーズには「当たり前の毎日を守るための努力は目に見えず、いつも感謝されるものではない」との思いを込めた。

 それでも、時として苦労したかいがあったと思えることも。松戸署に勤務していた約8年前、毎晩のように地域を巡回して犯罪被害者の自宅にパトロールカードを投函(とうかん)する業務にあたっていた。「本当に被害者に安心を届けられているのだろうか」との不安もあったが、しばらくして被害者が交番を訪れ「夜も安心して眠れ、平穏な日々を送ることができました」と伝えてくれた。

 「そうした『ありがとう』と言われた忘れられない経験は、警察官なら誰もが持っている」と伊藤さん。「一人一人が自分の仕事を愛して、まい進すれば、必ず『AJKJ』につながる。県民の皆さんにも警察に親しみを感じてほしい」と話している。【林帆南】

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