丸亀城を望む通町商店街の南端に立つ紀伊孝彦さん=香川県丸亀市で2024年8月19日午後6時6分、佐々木雅彦撮影
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 全国の地方都市では商店街の多くが「シャッター通り」になっている。そんな中、「アーケードのある大イベント会場」ととらえて活性化に取り組む商店街があると聞いた。人通りが少ないことを逆手にとり、「店舗」としてキッチンカーを集めたり、こたつを並べて「野外宴会場」に仕立てたり。どんな商店街なのか。興味を抱き、取材した。【佐々木雅彦】

 人口約11万人の香川県丸亀市。中心市街地には五つの商店街があり、メインが約300メートルに及ぶ「通町(とおりちょう)商店街」だ。石垣の名城として知られる丸亀城とJR丸亀駅を結ぶルート上にあり、1970年代まではにぎわっていた。しかし、車社会の進展や市街地の郊外拡大に伴い、80年代以降は空き店舗が目立つようになった。最盛期は五十数店舗あったが、今では36店舗に減っている。

通町商店街に畳を敷き、こたつを並べた宴会イベント「大おきゃく」=香川県丸亀市で2015年3月撮影(紀伊孝彦さん提供)
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 その通町に2015年3月、畳が敷き詰められ、こたつ約85台が並べられた。街全体を宴会場に見立てた高知市のイベント「土佐の『おきゃく』」にならって「大おきゃく」と銘打ち、約400人が鍋料理を囲んだ。「寂れつつある街を見過ごしておれん」と、応援する市民や商店主らによって14年3月に設立された「シャッターをあける会」が主催した。

 発案者は、当時、地元金融機関の小豆島の支店職員だった紀伊孝彦さん(36)だ。14年夏、島の祭りの担い手不足を補うため参加者を島外から募集するポスターを張ってもらおうと通町を訪ねた。「あける会」の人たちと話していると、高知工科大生時代に街の活性化に携わったことや、おきゃくの楽しさを思い出した。「香川でもおきゃくをしたい」と口にすると、「ここでやろう」と決まった。準備に関わり、気がつくと入会していた。

 「商店街の人たちは、よそ者の僕の願いを実現させてくれた」と紀伊さん。16年に会長になった。会のメンバーに誘われ、翌17年に丸亀市の不動産会社に転職し、活動にもより力が入った。

 プロサッカークラブ「カマタマーレ讃岐」の試合のパブリックビューイングや日本酒乾杯イベント、空き店舗の前などに11台のキッチンカーを並べた「フードトラックストリート」の開催――。これまで企画した主なイベントでは200~500人を集客した。

 新型コロナウイルス禍の20年には、中心市街地全体にも活動エリアを広げ、飲食店などを応援しようと地元の仲間とともに「まるがめ世話やき隊」を結成。飲食店が作った弁当を販売する「ドライブスルーでエール飯」を実施した。23年からは、レジ袋削減につながるとして新聞紙とのりで自由に手作りできる「新聞バッグ」の普及にも力を入れ、通町で製作体験会を開き、来店客にバックを配ったこともあった。

 アイデアマンの紀伊さんがイメージする理想の商店街は「さまざまな催しがいつも開かれている民間の市民会館」だ。当初、商店主の中には「イベントをしても、にぎわうのはその時だけだ」という声もあった。だが、回数を重ねるごとに面白がってくれる人が増えていったという。

 通町商店街振興組合の専務理事で、化粧品店を家族で経営する川上康夫さん(81)は「活性化を商店街の人だけで考えても限界がある。紀伊さんが来たことで街に活気が出てきた」と語る。「楽しい体験をしたら、お客さんはまた来てくれる。その時に買い物をしていただけたらありがたい」とイベントの効果に期待している。

 9日には、地域活性化の事例を研究している神戸学院大(神戸市)の学生ら18人が授業の一環で紀伊さんの話を聞きにやって来た。取り組みを説明すると、学生からは「有名人を呼んで集客を図ったことはあったが、地元のキッチンカーなどで独自のブランドを作り上げる手法は初めて知った」「地元の人たちが地域を盛り上げる動きが全国に広がればいい」といった発言が相次いだという。

 通町商店街とその周辺ではここ数年、ホテルがオープンしたほか、飲食店など4店が新たに開業した。「有名ブランド店の誘致や再開発だけがにぎわいづくりの全てではない。昔からのたたずまいを生かしたい」と紀伊さん。市民が「休日は地元で楽しもう」と思う街なら、観光客も引きつけるはずだと信じている。

「商店街が衰退」67% 実態調査

 中小企業庁が全国の1万2210の商店街を対象に行った2021年度の商店街実態調査(有効回答率41・8%)では、平均空き店舗率は13・59%。空き店舗が今後増加する見通しだと回答した商店街は49・9%に上った。商店街が「繁栄している。またはその兆しがある」は4・3%、「衰退している。またその恐れがある」が67・2%だった。

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