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 「信じられないかもしれないが、私は今とても幸福です」。これは2018年6月、東海道新幹線で男女3人を殺傷する事件を起こした小島一朗無期懲役囚が書いた、手紙の一部だ。事件当時、無職でホームレス状態だった小島無期懲役囚は、逮捕後の供述で「刑務所に入りたかった。無期懲役を狙った」とし、裁判で無期懲役が確定すると、その場で万歳三唱したという。このような刑務所に入りたがる珍しいケースもある中、近年では仮釈放が認められているにも関わらず、そのまま塀の外に出ず一生を終える終身刑同然になっている実態もあるという。『ABEMA Prime』では、無期懲役に求めるものはなんなのか、当事者を取材した記者や弁護士とともに議論した。

【映像】「私は今とても幸福です」物議を醸した小島無期懲役囚の直筆手紙

■64年間服役して仮釈放「出所した後、初めて自分の犯した罪の重さを感じた」

 刑罰の種類は、最厳罰の極刑である「死刑」があり、その次に生涯刑務所から出られない「終身刑」(日本には存在しない)、仮釈放の可能性がある「無期懲役」と続く。その他に「有期刑」「罰金刑」などが、罪の重さによって課せられる。

 小島無期懲役囚の他にも、受刑者などを取材してきた弁護士ドットコムニュースの記者・一宮俊介氏は、64年間服役し、仮釈放になってからようやく罪の重さを感じたという別の無期懲役囚について紹介した。「64年間入っていた方は、最初に1回殺人をして『もう俺は出られない』と、刑務所の中でもう1回受刑者を殺して、それで2回目の無期懲役になった。64年ぶりに出所した後『久しぶりの外の生活はどうか』という話をする中で、いきなり言葉を詰まらせ始めて、初めて自分の犯した罪の重さを感じたと話していた。クーラーの効いた部屋で、自分の好きな甘いものを、自分の好きなタイミングで食べた瞬間、本当においしくて、被害者はこのおいしさを感じられなくなってしまった、それを自分が奪ったと感じたと。被害者のことを刑務所の中では考えなかったと言ったことで、無期懲役にそもそも何の意味があるんだと疑問を感じて」取材を進めたという。

 全ての無期懲役囚が、服役中に何も感じないわけではない。監獄人権センターの代表で弁護士の海渡雄一氏は、まず小島無期懲役囚の件について「基本的には外に出たい、自由になりたいと思っている受刑者が99%。だから彼が本心で言っているとすれば、よほど彼にとって社会が生きにくい場所だった。そこから逃げ込む場所として、刑務所しかなかったのは痛ましい」と述べた。また別の例を挙げ「35年で仮釈放になって社会に復帰した受刑者と交流しているが、彼も(服役期間の)半分ぐらいまでは自分のことも世の中なことも見えてなかった。ちょうど半分ぐらい経った時に、何かモヤが晴れるような気分になって、自分は生かされている、自分の生きていることに意味があると、自分と同じような罪を犯してしまったり、自殺してしまったりするような少年たちのために、何かできないかって思うようになったと言っていた」と、更生に長い月日が必要だったと語った。

■罪の意識がない受刑者に無期懲役は意味がない?

 刑務所の生活を望む者もいれば、長い期間を経て刑務所内で更生する者、刑務所を出られるようになってから本当の意味で反省する者、いろいろなパターンがある。日本の刑務所も近年、その環境は変わりつつあるという。海渡氏によれば、「受刑者自身が更生していこうとする、それについてヒントになるような様々なプログラムとか教育とか、そういうものを与えることを最も重視した処遇にしようと、少なくとも法務省の方針はそう変わりつつある。現場では不満を持っている受刑者が多いので、すごく変わったという状態ではないが、少なくともみなさんが思い描いているような、ただ単に刑務所に入れておくだけ、という状態から大きく変わろうとしていることは間違いない」という。

 ただし罪を犯した者が、刑務所の中とはいえ、不満のない生活を送れることが、果たして「罪を償う」「罪の重さを実感する」ことになるかという点については、疑問の声も生じてくる。望んで刑務所に入った小島無期懲役囚に対しては、ネット上でも「犯人にとって刑になってません」「被害者が浮かばれないし生かす為に税金を払うのは馬鹿らしい」といった声も見られた。

 これにジャーナリストの佐々木俊尚氏は「ひどい気持ちになることを無理強いする法律なんて、この世には存在しない。長期間、刑務所の中で行動の自由を束縛することこそが刑法の基本だ。罰を与える、更生されるというのは2つの大きな柱だと思うが、我々一般社会から見ると、その罰と更生以外にも、この社会にいてもらっては困るので、外側にいてもらった方がいいというのもある。なんで我々の税金で養わなきゃいけないんだという意見、その気持ちはすごく民意としてはわかるが、我々が社会からその犯罪者を隔離してもらうためのコストとして考えると、それは決して無駄な金ではない」と述べた。

■減り続ける無期懲役囚の仮釈放 実質的な「終身刑」に

 日本では最厳罰の極刑である死刑の次が無期懲役、つまり終身刑がない。ところが現在では無期懲役囚が仮釈放されるケースがほとんどなく、実質的な終身刑になっているという別の問題も生じている。海渡氏は「今から数十年前、もともとは無期懲役になった人のほとんどが仮釈放になっていた」というものの、ここから徐々に仮釈放のハードルが高くなり「今は年間5人ぐらいが仮釈放で、同時に40人ぐらいが獄死している」と現状を伝えた。その理由として挙げたのが「被害者の声が非常に強まった」ということだ。2005年、有期刑の最高が20年から30年に伸びたことも受けた影響も大きい。有期刑受刑者よりも早い仮釈放が起こることのアンバランス、体感治安の悪化や凶悪事件増加などを背景に変更されたものだ。「もともと20年くらいで出られたところが、30年経たないと仮釈放の審理が始まらなくなった」。2010年代には仮釈放になった者のほとんどが35年以上服役してから。今後はさらに伸びる傾向だ。また佐々木氏も「裁判員制度が始まってから、厳罰化という恐ろしい現象が起きている。本来なら無期懲役で済むぐらいの刑を犯した人が死刑になっているケースとかも結構出てきて危険性がある」とも指摘した。

 被害者の心情に配慮して、なかなか仮釈放が出ないというのが海渡氏の考えだ。「もちろん被害者の感情はとても大切で、被害者の感情は加害者を重く罰することによって癒されるとは限らない。加害者が本当に人間性を取り戻してくれたのを見て、安心する被害者だっていると思う。受刑者も仮釈放の希望がある方が、その人がいい方向に変わっていく大きなきっかけになる」。

■日本の刑務所は受刑者の再犯率を下げられるか

 海外では安定した日常生活を送ることが出所後の再犯率を下げるとされ、更生に重点を置く刑務所もある中、日本の刑務所はどう進んでいくべきか。海渡氏は「今までの刑務所は、確かに強制労働をさせていたかもしれないし、その人が変わっていくことのきっかけになるようなプログラムは非常に貧弱だった。そこに対しての強い反省があって拘禁刑を作り、処遇にあたっては1日の半分は(更生)プログラム、半分は労働するように変えようとしている。人間として尊重されて、初めて人の権利や自由も尊重しようって気持ちになるのではないか」と語った。

 またライターのヨッピー氏は「出てきた人が再犯をしたら意味がない。(刑務所内の生活を)緩くして更生の方向になると、今度は被害者感情として腹が立つので難しいだろう。ただ僕は社会全体としてみたら、被害者感情よりも再犯をどう防止するかの方向に行った方がいいのでは。それを政府も国民に一生懸命言うべき。こういう意図があって、みなさんの全体利益のために、こういうプログラムをするんですよ、と。別に甘やかしているのでは決してなく、データ上でもこういう効果が明らかにエビデンスとしてあるから、だからやっているんだと、理解を上げていくこと」と、更生の意味合いを呼びかける重要性を説いた。
(『ABEMA Prime』より)

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