自転車で交差点を渡る人々。ヘルメットをしていない人が大半だ=さいたま市大宮区大門町1で2023年8月21日午後4時51分、加藤佑輔撮影

 2023年4月の改正道交法施行で自転車利用者のヘルメット着用が努力義務になってから約1年半。自転車事故の死者の半数以上が頭部に致命傷を負っていることもあり、埼玉県警は交通安全運動などを通じて着用を呼びかけている。だが、同年に県内の自転車事故で死亡した人は全員が未着用で、自転車ヘルメットの浸透は道半ばだ。なぜ普及に苦戦しているのか。街頭で取材をしてみると――。【加藤佑輔】

 今回訪れたのは、自転車の交通量が多いJR大宮駅東口周辺。8月下旬夕方ごろ、自転車で行き交う人々を見ても、ヘルメット着用者は少ない印象だ。

 「付けた方が安全なのは分かるけど、夏は頭が蒸れる。髪が乱れた状態で仕事をするのが嫌なので」と話すのは、毎日自転車で通勤しているさいたま市の30代女性会社員。「着用しなくても罰則がないなら面倒な気持ちの方が上回ってしまう」と語った。

 自転車で下校中の高校1年の男子生徒(16)は「中学の時はかぶっていたけど、高校に入ってから周囲で着用している人が減って、目立つのが嫌でかぶらなくなった。荷物にもなるので煩わしい」と話した。

 続けて「帽子」をかぶって自転車に乗っていたさいたま市の樋口多枝さん(70)に声をかけると、「これは帽子ではなくて、帽子に見えるデザインのヘルメットなの」と意外な返事があった。見た目は深緑色のハット帽のようだ。「万が一事故に巻き込まれたことを考えて、昨年から着用するようになった。格好悪いファッションにならないようにデザイン性の高いヘルメットにしている」という。

 着用をためらう理由はさまざまだったが、ヘルメットをしないと事故時の危険性は格段に高くなる。警察庁の人身事故のデータ(2018~22年)によると、ヘルメットを着用していなかった人の致死率は着用者の2・1倍に上った。また、県警交通総務課によると、23年の県内の自転車事故による死者数は23人(前年比7人増)で、全員がヘルメット未着用だった。そのうち6割が頭部に致命傷を負っていたという。

 県内のヘルメット着用率は、昨年7月の警察庁調査で6・1%(全国平均13・5%)と、全国ワースト6位に沈む。一方、着用率が59・9%と平均を大きく上回って1位だったのが愛媛県だ。13年にヘルメット着用を促す内容を盛り込んだ条例を全国に先駆けて施行。翌年、自転車で下校中の高校生がトラックにはねられ死亡する事故があったことを受け、15年には県立高校に通う生徒を対象にヘルメット着用を義務化し、生徒全員にヘルメットを無償配布したという。

 こうした取り組みが功を奏し、市民団体が20年に行った調査でも愛媛は着用率全国トップの結果をたたき出していた。行政や学校の積極的な対策が、着用率の改善につながった面があるようだ。

 埼玉でも、県警が独自の施策で着用率アップを図る。23年11月からは、ヘルメットの着用を促進する団体を募る「かぶる・ひろがる・命を守る みんなでカチッと‼ プロジェクト」を開始した。ヘルメット購入費の割引を受けられる特典があり、9月現在で、県内各地のシルバー人材センターや保育施設など100団体以上が参加している。街頭でのキャンペーンや交通安全教室でも着用を呼びかけている。

 県警交通総務課の担当者は「自分自身や大切な人を守るためにも、家庭や職場など身近なところから、自転車に乗る時は着用するよう、声を掛け合ってほしい」と話している。

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