NHKのラジオ国際放送などの中国語ニュースで、中国籍の外部スタッフの男性が沖縄県・尖閣諸島について「中国の領土」などと発言した問題で、NHKは10日、稲葉延雄会長が役員報酬50%(1カ月)を自主返納するほか、担当の傍田賢治理事が同日付辞任すると発表。問題の背景として「NHKの危機意識の乏しさ」を指摘した調査報告書を公表した。
問題の発言があったのは、8月19日午後1時過ぎに放送された同局のラジオ国際放送などの中国語ニュース。原稿を読んでいた中国籍の外部スタッフの男性が、尖閣諸島について「中国の領土である」と述べるなど、ニュース原稿にはない不適切な発言をした。
報告書によると、同日午前11時前、「靖国神社の石の柱に落書き」というニュースを翻訳していた中国人スタッフが柱には何が書かれていたのか、日本語原稿には詳しい記述がないと怒りだし、「NHKの原稿はあいまいで、あいまいなものをそのまま翻訳して中国語で放送したら、個人に危害が及ぶ」などと声を荒らげたという。
その後、中国人スタッフは落ち着いたが、放送の約15分前に携帯電話に着信があり、日本語で応対しながら離席していた。問題のニュースの終了後、デスクらに「日本の国家宣伝のために、これ以上個人がリスクを負うことができない」などと述べ、職場を離れたという。報告書では「“事前の兆候”について、察知して対処するには至っていなかった」とし、「危機意識の乏しさ」が事態を招いたとした。
稲葉会長ら幹部4人のほか、中国人スタッフと委託契約していた関連会社幹部2人が報酬を自主返納(1カ月)するほか、担当の傍田理事が辞任する。また天川恵美子・国際放送局長を減給としたほか、国際放送局職員4人を懲戒処分にした。
NHKは調査報告書で、不測の事態が起きた際に定型の「おことわり」コメントを英語を除く16言語で収録し必要な際に放送するシステムを構築するなどの再発防止策も示した。
この問題は、稲葉会長らが衆参両院の総務委員会理事懇談会や与野党の会合で謝罪する事態となり、議員から「国益を損なう事案」と厳しい批判も出ていた。政府からも、松本剛明総務相が「国際放送を担う公共放送としての使命に反する」と指摘した。【井上知大】
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