1983年から興南高校(沖縄県那覇市)の男子ハンドボール部監督を務め、全国優勝14回を誇る黒島宣昭さん(63)が今年3月末、副校長を最後に同校を退職した。2022年夏の全国高校総体後に、当時コーチだった照屋喜隆さん(45)へ監督を引き継いで総監督に退いたが、今後はさらにチームとの関わりを減らし「しばらくゆっくり過ごしたい。照屋カラーの新しい興南をよろしくお願いします」と言う。関係者いわく「愛し、愛された激アツな名将」。41年にわたる功績をたたえ感謝を伝えようと、教え子たちが企画した退職記念祝賀会が6日、那覇市内で開かれた。(社会部・新垣綾子)
黒島さんの名前にかけた「クロの日」の9月6日。「昨年から、この日にやると決めていた。大安で縁起も良いんですよ」。祝賀会の実行委員長を務めた大坪義和さん(46)が明かす。
祝賀会の余興で、興南ハンド部の教え子たちに取り囲まれてバンザイ三唱され、満面の笑顔を見せる黒島宣昭さん(中央)=6日、那覇市・マリエールオークパイン(金城拓撮影)新型コロナウイルス禍で開催できていなかった還暦祝いも兼ねたパーティーで、会場には20~60代の興南ハンド部OBや家族ら約150人が集まった。
ハンドのスター選手がずらり
ハンドボール新リーグ「リーグH」の琉球コラソンに所属する田場裕矢(48)、石川出(37)の両選手や、女子のザ・テラスホテルズラティーダ琉球監督の東長濱秀作さん(40)らの姿も。
にぎやかな余興で盛り上がったほか、プレーと生活両面での厳しさの一方で、その後のフォローも忘れなかった黒島さんとの日々を教え子たちが笑いを交えて暴露した。
監督の引き継ぎセレモニーで、写真におさまる黒島宣昭さん(後列左から3人目)と照屋喜隆さん(同4人目)のそれぞれの家族。黒島さんと照屋さんに加え、黒島さんの次男諄さん(前列左)、三男誠さん(同右から2人目)も興南ハンド部OBだ=6日リーグHのジークスター東京に所属する東江雄斗選手(31)も薫陶を受けた一人。ビデオメッセージを通して「黒島先生の指導で成長できたというところを見せたい」と飛躍を誓った。
日本代表の主将を務めながら、パリ五輪のメンバーから外れた東江選手が、「傷心」で帰郷した際のエピソードを打ち明けたのは東長濱さんだ。元気を取り戻してもらおうと、黒島さんの呼びかけで焼肉店へ。「次のロスを目指して頑張れ」。涙を流し、東江選手を鼓舞する黒島さんの様子に「黒島先生のように、熱く教え子を愛し、愛される指導者になりたい、と改めて思った」。東長濱さんは決意を込めた。
祝賀会に集まった興南ハンド部のOBたち=6日22歳で監督就任、全国制覇は38歳
浦添市出身の黒島さんは、自身も中学時代から選手として活躍。日本体育大を卒業して間もない22歳の時、母校・興南高校の現役部員に懇願されて監督に就いた。すぐに県総体を制したが、全国では決勝進出を逃すベスト4の壁に長く阻まれていた。
初めて日本一になったのは1999年春の選抜だ。「やっと、という思い。勝利を確信し、試合終了のホイッスルが鳴る前から号泣していた」。当時38歳。胸の高鳴りは、昨日のことのように覚えている。
全国高校選抜大会で興南ー北陸(福井)の決勝を身を乗り出して見守る黒島宣昭監督(左)。興南は27ー26で勝ち、4年ぶり2度目の全国制覇を果たした=2003年3月28日、富山県氷見市その後、選抜、総体、国体を制す「全国3冠」を2005年と2014年の2度達成。三男の誠(なり)さん(28)が主将を担った2013年の総体でも頂点に立った。「全国を取ったし、3冠もしたし、親子で日本一にもなれた。選手や家族、OBたちのサポートのおかげで最高にいい思いをさせてもらった」。日本代表に選出された教え子はこれまでに10人を超える。
「BIC」の由来
勝つことだけではない。教え子たちの傍らに興南の仲間やハンドそのものがあり続けることが、名将の何よりの実績かもしれない。興南OBでつくる一般チーム「興南BIC」は、黒島さんの名前をアルファベット表記にした「Black Island Club」の略。
沖縄で開かれた美ら島総体の準々決勝で、選手にゲキを飛ばす黒島宣昭監督(左から3人目)。興南は不来方(岩手)に31-34で惜敗し、4強入りを逃した=2010年8月4日、浦添市さらに時がたち、教え子の子どもたちが入部する時代になった。「昔はヤナワラバーも多くて大変だったな。そのOBの2世たちが、興南に来てプレーする姿を見られるなんて、本当に感慨深い。長くやってきて良かった」と目尻を下げる。
祝賀会の締めくくりで、興南高校ハンドボール部の教え子たちに、全国優勝の数と同じ14回胴上げされる黒島宣昭さん=6日、那覇市・マリエールオークパイン(金城拓撮影)祝賀会の締めくくりでは、成し遂げた選抜5回、総体6回、国体3回の全国制覇にかけ、黒島さんを14回胴上げした。後任の照屋監督は「あまりにも大きな存在すぎて、超えられるとは思わないが、10年ほど遠ざかっている全国制覇を果たし、黒島先生をまた胴上げしたい」と、てっぺんを見据えた。
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