丈夫な角を持つカブトムシや丸いテントウムシなど、昆虫の体の形にはさまざまな特徴がある。形は一体、どうやって決まるのだろうか。体の形を決めている殻(クチクラ)について研究している千葉大大学院理学研究院の田尻怜子准教授(44)に聞いた。【近森歌音】
――どのような研究をしているのですか。
◆生き物の形ができる過程に興味を持っています。卵からいろいろな形ができていきますが、一つの生き物の中ではほぼ同じ形が親から子へと受け継がれます。遺伝子が形を作る訳ですが、どういう遺伝子が一体、どう形を作っていくのかということを、ショウジョウバエを使って研究しています。
――なぜ、昆虫を使うのですか。
◆実は我々人間と昆虫は結構近いんです。体が基本的に細胞でできているという意味では共通ですね。人の場合は体の形を決めているのは骨になります。昆虫の場合は骨はないのですが、体の一番外側に殻があり、専門用語では「クチクラ」と呼びます。殻の形がどうやって遺伝子で決まるのかということが、脊椎(せきつい)動物の骨の形を決める仕組みと概念的には同じなのではないかと思い、研究をしています。直接、人を研究してもよいのですが、実験がしやすいのでショウジョウバエを使っています。
――実験がしやすいとは?
◆いろいろな遺伝子を潰して変異体を作ることがほぼ自在にできるため、遺伝子と形の関係をクリアに見ることができます。ショウジョウバエは生物の研究でよく使われるので、変異体を作る研究が発展しているという利点もあります。あとは、すぐに増え、飼いやすいのもポイントです。
――どんなことがわかりましたか。
◆クチクラを作るたんぱく質の中に、体の形を直接決めるものがいくつかあるということがわかってきました。クチクラそのものの物理的性質や構造を、たんぱく質自身が制御していて、その性質や構造が変わることで、体全体の構造が変わるということです。
――どんな点が新たな発見ですか。
◆これまでは、細胞が形を決めて、クチクラは受け身で細胞から出されて定着するだけ、つまり細胞の形のコピーがクチクラだと思われていたのですが、クチクラそのものの構造や性質が体の形を決めることに大事なんだ、ということがわかってきました。
――そもそも生物の体ができる過程に興味を持ったきっかけは?
◆中学・高校の時に生物部に入っていて、イモリやカエルを卵から育てていたのですが、一つの卵からどうやって形ができるのかと、ずっと不思議に思っていました。大学に入って、その疑問を学問として取り組むことができるんだと知り、やりたいと思いました。
――研究の成果を応用できる可能性はありますか。
◆クチクラは見た目も多様で、構造によって色も変わります。クチクラという材料を、昆虫がどうやって作り出しているのかを学べば、人間もまねをして新しい材料を作り出せるかもしれないと考えています。可能性は広いですよ。
■人物略歴
田尻怜子(たじり・れいこ)さん
1979年、神奈川県生まれ。2022年4月から現職。クチクラの研究を約18年続けている。専攻は発生生物学。趣味はピアノ演奏。
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