洞から生えた根を調べる「サイカチの木を守る会」の並木幹夫さん(左端)と樹木医の斎藤陽子さん=館山市北条で2024年‎8月‎30日午後3時半、岩崎信道撮影

 2019年9月の台風15号の影響で、千葉県館山市民に親しまれていた樹齢1000年の巨木が倒れた。江戸期に津波から人々を救い、関東大震災では避難先の目安になったとされる「六軒町のサイカチの木」。そのまま枯れるのではないかと思われたが、新しい根を生やし、復活した。同台風の上陸から9日で5年。防災のシンボルが見せたたくましい生命力に、保存に取り組んできた市民団体が再結集した。

 サイカチはマメ科の落葉樹。この木は同市北条の住宅敷地内にあり、倒れる前は高さ7・82メートル、幹の周囲3・93メートル。根元付近に、落雷によってできたとされる大きな洞(うろ)があった。

 江戸時代の元禄大地震(1703年)の際、津波に襲われた人々が木に登って難を逃れたとされる。この教訓から、津波が起きたら「サイカチの木より高台へ逃げろ」と言い伝えられ、関東大震災(1923年)発生時、周辺住民はいち早く避難できたという。

 2010年12月には、災害の記憶を伝える古木を保護しようと市民らが「サイカチの木を守る会」を結成。活動が実って市の天然記念物に指定されたが、19年9月9日、同台風による強風で根元から倒れてしまった。守る会と市で土のうを積んでむき出しの主根を覆うなどしたものの、樹木医らの判断は「再生は難しい」。市の天然記念物指定も解除となった。

台風15号による強風で倒れる前の「六軒町のサイカチの木」=「サイカチの木を守る会」提供

 その後、接ぎ木による後継樹の植え付けなどが行われたが、守る会のメンバーで樹木医の斎藤陽子さん(78)が23年8月、洞から地面に向かって枝状のものが伸びていることに気づいた。これは主根とは別の、二次的に生えた根で、サイカチが復活していることを示す証しと言えた。

 木は横倒し状態のまま葉を青々と茂らせており、今夏は豆果が実ったことも確認された。「年々、元気になっている」(斎藤さん)姿に「守る会」の活動も再開。約20人のメンバーが保護活動に取り組み、木の状態を報告する会合を開くなどしている。災害を乗り越え、再生を果たしたエピソードは紙芝居にまとめられ、老木の生命力をテーマにした歌「サイカチの詩」もできた。今後は天然記念物の再指定を目指し、市に働きかけていくという。

 斎藤さんは「私たちはもうだめだと思い込んだが、サイカチは倒れながらも生きていた。どんな困難にもあきらめてはいけないと、教えられたような気がする」。守る会の副会長で「サイカチの詩」を作詞した並木幹夫(ペンネーム・波丘ひろし)さん(76)は「たくましい生命力を無言で示す姿は人間社会に通じるものがあり、感動をおぼえた」と話した。【岩崎信道】

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