複合公共施設建設に伴う関連工事が再開された明治期の初代門司港駅関連遺構(手前、青いシートの一帯)。奥はJR門司港駅=北九州市門司区で2024年6月28日午後1時32分、本社ヘリから上入来尚撮影

 北九州市が解体を予定している明治期の初代門司港駅(当時の名称は門司駅)関連遺構について、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関「国際記念物遺跡会議」(イコモス、本部・パリ)は3日(日本時間4日)、市に解体の中止を求める国際声明「ヘリテージアラート」を出した。国内での発出は4回目。

 アラートはテレサ・パトリシオ会長名で「重要な文化遺産を北九州市が軽視していることを深く遺憾に思うとともに失望している」と指摘。市に対し、現在進行中の開発を前提にした発掘調査と、現地で予定している複合公共施設の建設を中断し、遺構の価値を総合的に評価するために学識経験者らと協議することや、遺構の保存計画の策定などを求めている。

 また、遺構の一部が埋蔵されているとみられる一帯でビル建設に伴う工事を進めているJR九州に対しても、工事中断と見直しを要請した。アラートは文部科学省や文化庁、福岡県にも送られる。

初代門司港駅の関連遺構を巡る動き

 遺構は複合公共施設建設に伴い2023年秋に実施した埋蔵文化財発掘調査で見つかった。約900平方メートルの敷地から、1891(明治24)年に造られた初代門司港駅舎の外郭や赤れんがの機関車庫の基礎部分などが確認された。市議会は6月、遺構の追加調査の実施と市民への説明会開催を条件に施設建設の関連予算案を可決。市は遺構解体を前提に8月から追加調査を実施している。

 遺構を巡っては日本イコモス国内委員会など16の学術団体が「国史跡級の重要な遺構」として北九州市に現地保存を求めてきたが、市は協議に応じる姿勢を一切見せてこなかった。背景には、現地での複合公共施設建設を最優先する市の方針がある。

 施設は、老朽化が進む門司区役所や図書館など門司区の9施設を集約するもので、市は市内全域で進める公共施設集約計画のモデルとして最重要課題に位置づけている。JR九州から用地を9億7000万円で購入するなど既に二十数億円を投入しており、更に約122億5000万円をかけて25年度に着工、27年度中の完成を目指している。

 遺構発見を受け、市は専門家6人に意見を聴取。全員が遺構の現地保存を求めたにもかかわらず、市は施設建設が大前提との姿勢を崩さず、施設と遺構を共存させるためには設計変更により約5億円の経費増と3年間の完成遅れが見込まれるとして応じなかった。

 また、市は国の文化財指定に不可欠な独自の遺構の評価も実施しなかった。理由について、市幹部は2月定例市議会で「評価は文化財指定につながる。複合公共施設を造ろうと思ったら残念ながら難しい」と答弁。文化財保護より施設建設を優先する市の姿勢をあらわにした。

 武内和久市長は4日、「文化遺産の保存と保護に関わる立場からの大切な意見。学識者や市民の意見を受け検討したが、市民の安全安心が第一と考え計画通り進めることにした。この方針の下で、どんなことができるのか考えていく」とのコメントを出した。【伊藤和人、山下智恵】

「ヘリテージアラート」とは?

 「ヘリテージアラート」は世界遺産の登録の可否を調査する国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)が文化的資産の保全と継承を求める国際声明で、世界で25例目だ。国内では、出雲大社庁の舎(や)の改築(島根県、2016年)▽鉄道遺構「高輪築堤」の再開発(東京都、22年)▽明治神宮外苑の再開発(東京都、23年)――に続いて4例目となる。

 声明に法的強制力はないが、JR品川駅周辺の再開発に伴い19年に見つかった高輪築堤を巡っては、JR東日本などが計画の一部を見直すこととなり、有識者会議が保存や移築の協議を進めている。一方、出雲大社庁の舎は17年に解体され、神宮外苑の再開発も見直しにはつながっていない。

 桜美林大の金子淳教授(博物館学)は「国内で3年連続の発出は異常事態としか言いようがない。単に一自治体による開発行為にとどまらず、国際的にも重大な問題に発展した」と強調。「少しでも多くの市民が(遺構について)関心を持つ機会が提供されることも重要だ」と語る。

 元ユネスコ事務局長で高輪築堤の有識者会議の座長を務める松浦晃一郎氏も「学識経験者の意見に耳を傾けず無視するのは感心しない」と北九州市の姿勢に疑問を呈し、市が協議の場を設ける必要性を指摘する。【池田真由香、森永亨】

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