造血幹細胞(血液を作る細胞)が正常に働かない患者に対し、健康な造血幹細胞を持つ骨髄を移植し、正常な血液を作る機能を回復させる治療法を「骨髄移植」という。成功すれば、骨髄は体内で増殖することから、白血病などから患者を救うことができる。ただし、白血球の型が適合しなければ移植はできず、その確率は兄弟姉妹で約4人に1人。血縁者以外では、数百人から数万人に1人という確率でしか一致しないという。また、日本骨髄バンクによると、2023年度には約55万人の骨髄ドナー登録者がいるものの、いざ患者とマッチングした後でも、4人に1人は様々な理由から“提供辞退”になってしまうという。他人を助けるためにドナー登録したはずが、なぜマッチングしたのに辞退してしまうのか。また辞退につながる問題は何か。『ABEMA Prime』では当事者を交えて議論した。
【映像】検査、手術、検査…骨髄提供までのハードなプロセス
■ドナー登録者数は約55万人、移植実施は年間約1000人
日本骨髄バンクによると、2023年度のドナー登録者数は55万4123人。患者は1822人で、移植実施患者は1086人だった。HLA(免疫の型)が適合すれば移植が可能になるが、血縁者以外で適合する確率は数百人から数万人に1人という低いもの。また適合してもドナーの都合や健康状態が整わなければ提供ができない。またドナー登録にも条件があり、年齢は18歳以上・54歳以下。体重は男性45キロ以上、女性40キロ以上。健康状態が良好で、骨髄・末梢血幹細胞を提供する内容を十分に理解していることが求められる。登録できない例としては病気・けがの治療中、血圧が高い・低い、貧血、妊娠中・産後1年未満・授乳中、過度な肥満などがある。
また適合し、提供することになってからも、多くのプロセスを踏む。一例としては術前検診に始まり、1週間後に自己血採血の1回目、その2週間後に2回目、翌週に4日程度入院をして採取、さらに3週間後に術後検診がある。術前検診の前にも確認検査があり、トータルでは採取まで約2〜4カ月かかるほか、やはり骨髄を採取するための手術に、入院が必要になる点はハードルが高いようだ。
■提供辞退者「登録してから何年後に適合ということもざらにある」
骨髄移植は臓器移植と異なる点は、骨髄が体内で増えること。提供した側もいずれ元に戻り、また移植を受けた側も成功すれば、骨髄を増やし、正常な血液を作るという、完全に治癒したような状態(寛解)が望めるという。それでも、ドナー側への負担により結果として4人に1人が辞退するという現状がある。実際に、提供を辞退したことがあるいおりさんは、今年6月に適合の連絡を受けたものの、妊活中だったために辞退した。
「不妊治療中だった。年齢のこともあって、1回ダメだったら今度は来月というように時間もかかる。(妊娠を)年齢的に急ぎたかったのもあり、今回はやむを得ずお断りをした」。いおりさんはその他にも過去2度、提供できないケースがあった。1度目は予定が空いていたため採血まで進めたが、もう1人の適合者が提供することになり立ち消えになった。2度目も採血まで進めたが、そこで貧血と診断されてNGになった。
登録者としても、登録した時点では提供できる状態・環境かもしれないが、いつ「適合した」と連絡が来るかわからないのも、辞退を招く課題の一つだ。「登録してから何年後に適合というのもざらにあると思う。その頃には自分の生活状況だったり家族構成が変わったり、いろいろある。自分のタイミングが悪い時期はどうしてもある」と語った。
■提供側も1週間の入院が必要なケースも
本人の都合もあれば、周囲から提供を止められるケースもあるという。日本骨髄バンクによると、ドナーになった従業員に特別休暇を与えている企業・団体は849社(7月現在)。学生ドナーに対して公欠扱いにしている教育機関は14校。国内全体の企業・団体、教育機関の数を考えれば一握りだ。
医療ジャーナリストの市川衛氏によれば、周囲が止めるケースとして「家族が心配することもある。腰の骨に針を指し、中の骨髄を取り出す手術は全身麻酔が必要になる。また別のパターンでは薬を使って幹細胞を増やし、骨髄の中から血液に溢れてくるところを採取するものがあるが、こちらは1週間ほど入院しなくてはいけない。さすがに負担が大きいと、家族からストップがかかることがある」と説明した。
一方で、様々な自身の都合により、提供を辞退したものの、人助けができなかったと罪悪感を抱く人もいるという。骨髄を提供しても何かしらの報酬を得られるわけでもなく善意に支えられているが、ドナーになることのハードルが高くなるほど、登録する人が減る恐れもある。EXITの兼近大樹も「家庭の事情で断らなきゃいけない人に、外野が批判していたら登録する人がいなくなる。外野が騒げば騒ぐほど当事者がどんどん困っていくというとんでもない悪循環だ」と述べた。
■医療ジャーナリスト「辞退に罪悪感を持ちすぎない方がいい」
では、どうすればより登録者が増え、かつ辞退する者が減るようになるか。
市川氏は、辞退する人のメンタル面について語った。「せっかく登録してマッチした連絡がきたのに断るということに、罪悪感を持ちすぎない方がいいのは間違いない。マッチした数にもよるが、医療機関側も最大で同時に10人くらいにオファーする。その10人の中には当然、仕事が忙しいからと断る人もいる。また、一番マッチして体調も良くて若い、条件の中でNo.1の人を医療者側が選ぶこともある。オファーが来ても自分一人が断ったら、命を奪ってしまうかもしれないと思うほど、逆にそこが嫌だから登録しないという、一番の希望を奪うことにつながってしまう」と述べた。
アメリカでは登録者が約700万人、ドイツでも約600万人と、日本と比べて10倍以上いると言われている。「(ドナー登録も)もっとカジュアルにした方がいい。これぐらい多いと『自分以外にもいるだろう』と断れるし、断ったとしても仕事のタイミングや体の調子がいい人がやってくれる。ヨーロッパやアメリカの方がボランティア精神、他者のために自分が何かをする意識が強い。日本の方が、他者のために自分の何かを提供することに踏み切れていない人が多いかもしれない」と指摘した。
報酬に関しては慎重な議論が必要だ。金銭的なものを重視した場合、市川氏は「患者側とドナー側が直接お金のやり取りをすることもある。臓器移植でも大きな問題になったことがあるが、金が欲しいから『自分の腎臓を売ります』に近いことが起きてしまう。最終的に歪みが出てくるので、金は本人が得られないようにと国際的にもなっている」と状況を語った。それでも国内でも一部の自治体は、助成金が支払われるケースもあり、東京都杉並区では入院・通院に1日2万円、さらに勤務先の事業者に対しても1日1万円が出る。市川氏も様々な報酬に関しては「こういう状況になってきているので、インセンティブを入れなきゃいけないという話が出てくるのは、全然おかしいことではない」とした。
現在、市川氏がドナーにとって「最大のインセンティブ」と語るのは、患者から届く御礼の手紙だという。「移植を受けてうまくいったら、移植を受けた側から手紙をもらえる制度がある。その手紙を一生の誇り、一生の宝だと持っている方がいる。やはり自分の存在によって1人の人間が、確実に命が助かったという証拠が手紙。『本当にありがとうございました』というものに、何か自分が生まれてきた価値を実感させてくれる経験だ。骨髄バンクが仲介して、住所がわからないように届けてくれる」という。また市川氏は、ドナーになった人へより高い評価を求めた。「『骨髄移植をしました』という人がいたら、社会みんなで『すごくいいよ』と称賛されるようになればいい」とも付け加えた。
(『ABEMA Prime』より)
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