吹き飛ばされた建物の屋根のような金属板が電線にからみついていた=宮崎市東大淀で2024年8月29日午前8時35分、下薗和仁撮影

 29日に九州に上陸した台風10号に伴い、宮崎市内では竜巻とみられる突風が発生し、けが人や建物への被害が出た。なぜ台風が来ると竜巻が起きるのか。竜巻のメカニズムに詳しい防衛大学校の小林文明教授(気象学)は「起こるべくして起きた」と言う。どういうことなのか、小林教授に聞いた。【聞き手・山口響】

 実は竜巻は4分の1が台風に伴って発生します。「台風の腕」のようなものと呼ばれますが、台風に向かって吹き込む湿った空気で形成される積乱雲の列の中でよく起こります。台風の腕は約200~600キロに及び、1000キロになることもあるため、非常に広範囲です。

 その中で特に竜巻が起こりやすいのは、台風の中心からかなり離れた進行方向の右側です。こうした性質を踏まえると、宮崎平野は最も日本で台風に伴う竜巻が発生しやすい場所です。台風は九州に接近することが多く、はるか南の海上にある時に、台風の腕はちょうど東から巻くようにして宮崎平野に入ってくるためです。

 竜巻は海の上でも山でも起こりますが、これまでの例を見ると、山や丘があると竜巻は勝てずに消えてしまいます。宮崎は平野と言われますが、すぐに山があるのでそこまでは入っていかず、結果として竜巻の被害マップを見ると、海岸線周辺に集中していることが分かります。

 (3人が亡くなった)2006年に竜巻が起きた宮崎県延岡市では、ほぼ同じ場所で十数年後にも竜巻がありました。今回被害が出た宮崎市佐土原町でも数年前に竜巻が起きており、今回も起こるべくして起きた典型的なパターンなのです。

 時間差で複数の場所で竜巻が起こるのにも、理由があります。積乱雲が数十個、数百個と列をなした場合、どの雲も竜巻を起こすポテンシャルになるメカニズムがあるため、時間差で場所をずらしながら次々と竜巻が起こるのです。いろんな場所をまたぎ1、2日かけて10個ほどの竜巻が起きたこともありますし、台風が北海道付近まで行き、静岡県で竜巻が起こる場合もあります。

 今回の台風10号では、高知平野でも竜巻が起こる可能性があります。濃尾平野や関東平野でも起こりやすいでしょう。あまり知られていませんが、関東で台風によって起こる竜巻で最も多いのは、内陸の栃木県です。

 ただ、台風そのものが嵐で、そこに組み込まれている竜巻を予測するのはなかなか難しいのが現状です。メカニズムは大体分かっているので、台風に備えるのと同時に竜巻も起こりうるということを、一般の方が頭に入れる必要があります。

 気候変動によって起きている海水温の上昇は、台風やその周りの雲の列の発達にも影響しています。昔の台風は日本に近づくと弱くなりましたが、今は近づいて強くなるという逆の状態で、竜巻を生むということに関してはプラスに働いているのです。

 9月は台風シーズンで、日本の竜巻シーズンでもあります。9月の被害の半分は台風による竜巻で、被害が大きくなります。元々の竜巻の勢力も大きいですが、台風の風速も増しており、進行方向の右側では台風の風速は純粋に足し算されることになるので、より注意が必要でしょう。

 風速の弱い台風でも注意が必要です。台風から離れた200~500キロの地域では、台風が来る半日前や1日前に発生します。その間は雨の降らない晴れ間もあるため、買い物などで外出してしまいます。延岡(の竜巻)でもショッピングセンターで人が亡くなっており、警戒が必要です。人的被害に直結するため、構造を理解した上でスマートフォンで雨雲レーダーを見て雨が降りそうだと思えば外出を控えるなど、注意が必要です。

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